CROSS LOVELESS〜冷たい結婚とあたたかいあなた
「ほら、蓮。薫さんに挨拶くらいしたらどうだ」
「……」
兄である玲さんが促しても、蓮さんはだんまりで私を見ようともしない。昔からそうだ…なぜか、彼は私を嫌っている。会話だって片手で足りるほどしかした記憶がない。
「いいのです。お仕事でお疲れでしょうから……あ、私お茶を淹れ直しますわ」
テーブルの紅茶が冷めたのに気づいて、電気ケトルからお湯をティーポットとティーカップに注いであらかじめ温めておく。
玲さんがお好きな茶葉は、ニルギリのレモンティー。美香が好きなミルクティーも作りやすい品種だから助かる。
そして、蓮さんは…ストレート。
「今日は贈り物があるんです」
私が紅茶を淹れていると、玲さんがビロードの細長いケースをテーブルの上に置く。それを開くと、ひと粒の淡い水色の宝石がついたペンダントが現れた。
「遅れてしまった上に、お誕生日プレゼントにしては安物ですみませんが」
「い、いいえ…ありがとうございます」
まさか、お誕生日プレゼントをいただけるなんて思わなかった。
私と美香が20歳になったお誕生日は昨日3月3日。美香はお友達にお祝いをしてもらえたらしいけど、私は三浦さんから小さなバッグをプレゼントしていただけただけ…。お父様も無関心だった。
(嬉しい…私には初めてのアクセサリーね)
「さっそく付けてみてください」
「はい」
ドキドキしながら手にしてみる。初めて触れたゴールドはサラリと冷たい感触だった。