CROSS LOVELESS〜冷たい結婚とあたたかいあなた
(アクアマリン…私の誕生石ね)
今まで玲さんからお花を頂いたことはあっても、アクセサリーのプレゼントは初めて。
しかも、私の誕生石をご存知でそれに合わせてくださったなんて。
指先でそっと触れると胸にあたたかいものが広がり、思わず頬が緩む。
「お姉様、紅茶が冷めてしまうわ」
美香のたしなめる声でハッと我に返り、急いでレモンティーとミルクティーを淹れる作業に戻った。
「申し訳無ありません」
「いや、そんなに気に入っていただけると贈った甲斐もあります」
玲さんは優しい…私がどんな粗相をしても、怒ったり咎めたりすることはない。むしろ、こちらを思いやってくださる。だから、この方となら穏やかな生活を築けると思う。
……けれど、なぜだろう?
玲さんの言葉と行動に、どことなく空虚さを感じるのは。
まるで、教科書のようなお手本通りの“よい夫”そのまま…。
(いけない、そんなふうに考えては。一生をともにする方なのよ…私にはもったいないほどのお方。だから、良い所だけを見ておけばいいの)
「どうぞ」
「わぁ、美味しい!やっぱり薫お姉様の淹れるミルクティーが一番だわ」
「そうだね。…うん、うまい。薫さん、さすがです」
美香と玲さんが次々と褒めてくださるから、照れくさくなって急いで蓮さんの紅茶をお持ちする。
けれど、気もそぞろなせいか、テーブルの脚に右足を引っ掛けてしまった。