CROSS LOVELESS〜冷たい結婚とあたたかいあなた
「あっ…」
身体が傾いた、と認識した時にはすでに手遅れで。
覚悟を決めギュッと目を瞑った私の身体は、弾力のあるものに包まれた。
「……?」
(痛くないし…なんだか熱くてかたい…それに)
あたたかな、春の陽射しのような薫り。
陽だまりで微睡んだ幼い時代(とき)のような……。包み込まれる安心感があった。
「……気をつけろ」
ぼそっと、耳元で囁かれた瞬間ーー。
なぜか、ズクンとお腹に衝撃が走り、ビクッと身体が揺れた。
低いささやき声は、さらに続けてこう告げてきた。
「……現実を見ようともしないアンタには、ヘドが出るね。妹の胸元見てみなよ」
「……!」
すぐに体を起こし、キッと目の前の男性……蓮さんを睨みつけた。
「助けてくださってありがとうございます!ですが…余計なお世話ですわ!」
紅茶を淹れ直し少しだけ乱暴にティーカップを置くと、蓮さんはまた無関心そうに視線を逸らす。
(何なの…!)
「お姉様、大丈夫でした?お怪我は…」
「あ、ありがとう。蓮さんのおかげでなんともないわ」
「よかった!お姉様になにかあったら美香、悲しいですもの」
ぽろぽろと大粒の涙を流す美香は、本当にかわいい。いつもストレートに感情を表すのは羨ましいけど…ふと、さり気なく妹の胸元を見て、ギクッとした。
美香の胸元には、私と同じデザインのプラチナのダイヤモンドペンダントが……。
“現実を見ようともしないアンタ”
蓮さんの声が、頭に木霊する。でも、私は見て見ぬ振りをする。
(きっと…玲さんは気を遣ってくださったのよ…私と結婚したら美香は義妹になるから…そうよ、それだけよ)