年下男子は恋愛対象になりますか?
「これ洗ったら帰るね」

タイミングを見計らって立ち上がる。
私の手には、空のマグカップとチョコレートの包み紙。

「俺がやるんで、そのままにしておいて下さい」

「これくらい自分でやるって。隼人君のも洗うよ」

困ったような顔をしたから、中身が空なのを確認してから持ち上げた。そもそも看病に来たんだし、私がやって当然なわけで。

洗い物はすぐに終わって、玄関でコートとマフラーと手袋を身に付ける。

「体調悪くなったりしたらすぐに連絡して?」

「車まで一緒に行きます」

うん。隼人君も上着を持ってきていることには気が付いていた。

「今は大丈夫とはいえ、熱あったんだしダメ。気持ちだけ貰っとく」

「……あの、明日どうしても会えませんか?それか俺のバイト先まで食べに来てほしいです」

「ごめん。でも30日には必ず来るから。前の日に会社の忘年会があって、お昼過ぎになっちゃうかもしれないけど」

そんな顔しないでよ。困る。

「外に出る時は暖かい格好するんだよ?じゃあ、またね」

ドアを静かに閉めて、外廊下をいつもと同じペースで歩いた。階段も急がずゆっくりと。

良かった。隼人君が元気になって。
良かった。帰るまで何とか頑張れた。

空気は冷たくて、吐く息は白い。
営業しているお店が多くて明るかったけど、澄んだ夜空を見上げると星がいくつか見えた。

「明日、プラネタリウムでも行こうかな。あー、でも日帰り温泉とかで癒されたいかも」

美樹にお誘いのメッセージを入力している途中で、着信画面に切り替わる。そこに表示された隼人君の名前。

電話越しでも笑顔をつくる。

『もう車に着きました?』

「ううん、もう少し。どうしたの?」

『30日、食べたいものあります?ケーキは何がいいですかね?』

コインパーキングの何番に停めていたのか確認しに行った時、車内に置きっぱなしにしていた紙袋の存在を思い出した。クリスマスプレゼントとして買っていた物。

これを渡したら、出かけるとき身に付けてくれるかな。体調が悪化するのを、少しでも防げるかもしれない。
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