【番外編】円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 ルシード曰く、マーガレットを誘う際に一緒に渡したい物があるのだが、それを作るための材料の到着を待っていたらこんなにも直前になってしまったのだという。
 おまけに、さんざん待たされた挙句、その材料が「入手困難につき納期未定」になってしまって作れないという窮地に立たされているんだとか。

「だったら、とりあえず誘うだけ誘って、後から渡せばいいだけじゃないの?」

 わたしの提案にルシードは浮かない顔をした。
 マーガレットを誘ってOKしてもらえればそれでも問題はないけれど、万が一、断られた場合でもそれだけはどうしてもプレゼントしたいのだという。
 
 卒業パーティーのパートナーを申し込んで断られるというのは、告白してフラれたも同然で、その相手に後日プレゼントを渡そうとするのは未練がましくてしつこい男だと怖がられそうだから、誘うときに渡したいんだとか。

 誰からも誘われていないならOKするはずだと思われがちだが、やはりそこは、いくら無礼講の学院内とはいえ実際は平民であるマーガレットと、男爵家のルシードでは身分差があり、ただでさえパーティー参加に後ろ向きなマーガレットがそれを気にして断る可能性は大いにある。

 ちなみに一体どんなプレゼントなのかと尋ねると、目の疲れと肩こりを軽減する効果のある生地らしい。
 
 確かにそれはマーガレットが喜びそうだ。
 ドレス作りで忙しそうにしていたときも、肩が凝った、首が痛いと言うマーガレットに、就寝前にマッサージしてあげるのがわたしとリリーの日課だったから、よくわかる。

 そして、突然入手困難になってしまった材料は、レッドリザードの尻尾らしい。
 レッドリザードとは魔物にしては小型の赤いトカゲで、その尻尾には血行促進や温熱効果があり、主に医療の現場で使われる薬や道具の材料となっている代物だ。
 
 あまり好戦的ではないおとなしい性格のために飼育が可能で、尻尾は切ってもまた生えてくるため、確か国内にレッドリザードの牧場があったような気がするのだけど…?

「うん、普段なら注文すればすぐにその牧場から届くはずなんだけど、何かトラブルがあったみたいなんだ。ステーシアさんがその件について何か知らないかと思って」

 牧場があることなら知っていたけど、さすがに近況までは…ん?たしか牧場の場所は…。

「ねえ、レッドリザードの牧場って、西方の国境の山だったわよね?」
 ルシードが、うんうんと頷く。

「じゃあコンドルに聞いてみましょうよ。コンドルの実家、あの辺りだから何か知ってるかもしれないわ」

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