【番外編】円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
「道中は、わたしのことを『赤毛』と呼んでちょうだい」

「赤毛にはやっぱり赤毛が似合うな!」
 赤毛になったわたしを見て、コンドルはなぜか喜んでいる。

 ルシードは、一体何をそんなに詰め込んできたのかというほどの大荷物で、よくよく話を聞いてみれば、なんと「旅行」が初めてなのだという。

 これを「旅行」と言ってしまっていいものか判断に迷うけれど、ルシードが楽しそうに「お菓子食べる?」と大きなリュックサックからあれこれ取り出すのを微笑ましく思いながらクッキーを受け取った。

 ルシードは18歳の我々よりも実年齢が3つ下の15歳だ。
 魔導具師としての才能が溢れているために、魔導具科での授業や実習では年齢差を全く感じさせずに他の生徒を圧倒しているようだけれど、日常生活では、幼少期の不幸な出来事のために普通の子供が成長の過程で当たり前に経験している事柄がすっぽり抜け落ちていて、実年齢以上に幼い。

 そんな弟のように可愛がっているルシードの初恋が実るようにと願わずにはいられない。

 ハウザー家の馬車は大きくて揺れも少なく、座席で眠るのもたいした苦痛は感じなかった。
 途中で何度か休憩を挟みながら、レッドリザード牧場に到着したのは翌日の早朝のことだった。

 牧場の経営者家族はまだ寝ている時間だろうから、とりあえず飼育小屋の方を見に行ってみた。
 外から中を覗いてみたけれど、確かにレッドリザードが1匹もいない、もぬけの殻だった。

 壁の一部に新しい板が貼ってあることから、おそらくその箇所が腐ったか何かで穴が開いて逃げ出してしまったのだろう。
 レッドリザードはおとなしい魔物で積極的に人間を襲うことはないけれど、人に懐くわけでもないため、穴が開いていれば当たり前のようにそこから出て、散り散りに逃げて行ったに違いない。

「逃げるとしたら、どっちかしら?」

「あっちの山だろうな。あいつらは土よりも石がゴロゴロしている場所が好きだから」
 コンドルが牧場の裏手にあるゴツゴツとした岩肌を晒す岩山を指さす。

 岩山で地道にレッドリザードを探すしかないってこと!?

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