【番外編】円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
「ごめん、ちょっと離れててくれるかな」
飼育小屋の壁の前にしゃがんでいたルシードが、荷物の中から白い羽を取り出した。
「ルシ?それは何?」
「これね、サンダーバードの羽なんだ。ちょっと雷魔法を使うから、離れていてね」
後ろに下がって見ていると、ルシードは手袋とサングラスを着けてサンダーバードの羽を壁に押し当て、魔法を詠唱した。
バチッ!という青い稲妻が光り、ルシードが手を放すと壁に羽の模様が刻印されたように残っている。
「膝から下の壁に触れると弱い稲妻が発生してビリビリ痺れるようにしたから、もう逃げ出さないと思う。あと三面も同じように魔法付与するね。サンダーバードの羽をくれたキースお兄ちゃんに感謝しないといけないな」
ルシードの実兄であり、今は山賊を装った国家の諜報員であるキースは、とにかく弟に甘い。
山をパトロールしていて偶然拾ったと言いながら魔導具の材料として使えそうな物を定期的にルシードの元へ届けているのだけれど、どう考えても「偶然」じゃないだろうというレア素材も多数あるらしい。
さすがルシだわ。
こうなったら、逃げ出したレッドリザードを一匹でも多く捕獲して小屋に戻さないといけないわねっ!
もちろん今日もわたしは風のブーツ「カモちゃん」を履いている。
岩山めがけて疾走していると、途中の大きな岩陰で赤い物が動いたように見えて、そこからは足音を立てないようにそろそろと近づいていった。
岩から赤い尻尾が見えている。
間違いない、レッドリザードだわ!
一気に跳躍してその尻尾を地面に押さえつけるようにして掴んだ。
「やった!捕まえた!」
と喜んだのも束の間、レッドリザードは尻尾をプツンと切り離して一目散に藪の中へと逃げて行ってしまった。
手の中にはウネウネと動き続ける赤い尻尾だけが残された。
もともとこれが欲しかったわけだけれど、欲しいものは手に入れたのでこれでさようならというわけにもいかない。
レッドリザードの尻尾は医療現場で重宝されている素材だからこそ、安定的な供給ができるようにこうした牧場があるのだ。
せっかくルシードが壁を強化してくれたのだし、このまま放ってはおけない。
でも、あのすばしっこさだと今日一日かけたって数匹しか捕まえられないんじゃないかしら。
困ったわ。
どうしよう!?と声を掛けようと、コンドルが立っているであろう方向を振り返ったわたしは、目に飛び込んできたその光景に唖然とした。
なんとコンドルが、グリフォンに肩を掴まれて、また連れ去られそうになっていたのだった。
何やってるのよおぉぉぉっ!!
飼育小屋の壁の前にしゃがんでいたルシードが、荷物の中から白い羽を取り出した。
「ルシ?それは何?」
「これね、サンダーバードの羽なんだ。ちょっと雷魔法を使うから、離れていてね」
後ろに下がって見ていると、ルシードは手袋とサングラスを着けてサンダーバードの羽を壁に押し当て、魔法を詠唱した。
バチッ!という青い稲妻が光り、ルシードが手を放すと壁に羽の模様が刻印されたように残っている。
「膝から下の壁に触れると弱い稲妻が発生してビリビリ痺れるようにしたから、もう逃げ出さないと思う。あと三面も同じように魔法付与するね。サンダーバードの羽をくれたキースお兄ちゃんに感謝しないといけないな」
ルシードの実兄であり、今は山賊を装った国家の諜報員であるキースは、とにかく弟に甘い。
山をパトロールしていて偶然拾ったと言いながら魔導具の材料として使えそうな物を定期的にルシードの元へ届けているのだけれど、どう考えても「偶然」じゃないだろうというレア素材も多数あるらしい。
さすがルシだわ。
こうなったら、逃げ出したレッドリザードを一匹でも多く捕獲して小屋に戻さないといけないわねっ!
もちろん今日もわたしは風のブーツ「カモちゃん」を履いている。
岩山めがけて疾走していると、途中の大きな岩陰で赤い物が動いたように見えて、そこからは足音を立てないようにそろそろと近づいていった。
岩から赤い尻尾が見えている。
間違いない、レッドリザードだわ!
一気に跳躍してその尻尾を地面に押さえつけるようにして掴んだ。
「やった!捕まえた!」
と喜んだのも束の間、レッドリザードは尻尾をプツンと切り離して一目散に藪の中へと逃げて行ってしまった。
手の中にはウネウネと動き続ける赤い尻尾だけが残された。
もともとこれが欲しかったわけだけれど、欲しいものは手に入れたのでこれでさようならというわけにもいかない。
レッドリザードの尻尾は医療現場で重宝されている素材だからこそ、安定的な供給ができるようにこうした牧場があるのだ。
せっかくルシードが壁を強化してくれたのだし、このまま放ってはおけない。
でも、あのすばしっこさだと今日一日かけたって数匹しか捕まえられないんじゃないかしら。
困ったわ。
どうしよう!?と声を掛けようと、コンドルが立っているであろう方向を振り返ったわたしは、目に飛び込んできたその光景に唖然とした。
なんとコンドルが、グリフォンに肩を掴まれて、また連れ去られそうになっていたのだった。
何やってるのよおぉぉぉっ!!