【番外編】円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
【カイン目線】

 卒業式を控え、学院内はすでにお祭りムードに包まれている。

 今日からはもう授業もなく、一旦実家に戻る生徒もちらほらいる。
 そんな中、不穏な噂を耳にした。

 その噂の真偽を確かめるべくリリーを自習室に呼び出したのだが、リリーは明らかに困惑した顔をしていた。
「ステーシアちゃんは今どこにいる?」

「それがね…実は昨日の夕方に魔導具科のルシードとどこかへ行ってしまったの」

 はぁっと大きなため息が漏れた。
 コンドルの手引きでステーシアとルシードが駆け落ちしたという噂は、あながち嘘ではないらしい。

「どういうことだ?」
「それがわたしにもよくわからないの。ステーシアが髪を赤く染めて、卒業パーティーが迫っているから急がないといけないって言って…わたしが略奪なのかって聞いたら、そうだって言っていたわ」

 なんだとお!?
「待て、つまりルシードがステーシアちゃんを略奪して駆け落ちしたってことか?」

「でもね、早ければ今夜には戻ってくるとも言っていたのよね。どういうことなのかしら」

 それは……既成事実を作って戻ってくるということではないのか?

「レイナードはどうなるんだ」
 思わず頭を抱える。

「婚約破棄でしょうね」
 俺の暗澹たる胸中とは裏腹に、リリーの声はなぜか嬉しそうだ。

「悪役令嬢は実はこれを狙っていたのよ!許すふりをして油断させて、卒業パーティーで仕返しの婚約破棄宣言をするんだわ。小説の第三弾はこれで決まりねっ♡」

 いやいやいや、決まりね♡じゃねーし!

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