【番外編】円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 そして朝食後――。

「あのさ、俺これでも婚約者がいるんだわ。だから、おまえの気持ちにはどうしても応えられない。ごめんな」
「クル……」

「でも友達にはなれる。これからもずっと俺らは友達だ。俺ん()に遊びに来いよ。庭が広いからさ、一緒にバーベキューしようぜ」
「クルル♡」

 わたしとルシードは、コンドルとグリフォンの逢引きを飼育小屋の陰から見守っていた。 
「ねえ、コンドルったらグリフォンに向かってかっこつけてるわよ?」
「ステーシアさん、グリフォンの真剣な愛を笑っちゃいけないよ」

「何言ってるのよ、ルシだって笑ってるじゃない!」
「ステーシアさんが笑うから釣られただけだよ!」

「おい、おまえら!全部聞こえてるぞっ!!」
 振り返ったコンドルは、顔を真っ赤にしていた。

 コンドルが照れているのか怒っているのかわからなかったけれど、グリフォンを手なずけたことに関しては、ただただすごいと感心して、本当はうらやましいと思っているのは内緒だ。
 

 後にこの地方には、朝焼けと共に突如として現れた赤毛の女性が、二人の男とグリフォンを従えて一瞬にして牧場を元通りにし、その見返りは尻尾三本のみでいいと言って笑顔で去って行ったという「暁の救世主伝説」が語り継がれていくことになるのだが、それは余談である。
 
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