【番外編】円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
『今から帰ります』
 そしてこの町の名前を書いて細長く折りたたむと、鷹の脚にしっかりと結ぶ。

「疲れてるところ悪いけど、よろしくね」
 ルシードが鷹に語り掛けて腕に乗せて立ち上がると、鷹は空高く羽ばたき、すぐに見えなくなった。

 途中の山を大きく迂回してのんびり街道を走る馬車とは違い、鷹は一直線に飛んで行くのだろうけど、それにしてもかなりの距離だ。
「あの鷹って、ルシがどこにいても居場所を突き止めて飛んでくるの?」

「うん、そうなんだよ。目がよほどいいのか、別の何かで僕の居場所を感知しているのかはわからないんだけど、すごいよね」

 すごいなんてものじゃないわ。
 それってもはや、軍事兵器レベルよっ!

「ねえルシ、それを解明できれば、標的の追尾機能を備えたライフル弾とか作れちゃうんじゃないの!?」

 ルシードが冷めた目でわたしを見た。
「ステーシアさんは、火炎放射器とか追尾弾とか、どうしてすぐそうなるかなあ」 

 尚、そう呆れていたルシード・グリマンが、ロックオンした標的をどこまでも追いかけ続け、毒針を持ち、さらにはどんな遠い距離からでも帰還する「追尾蜂」(ホーミングビー)を開発するのはこの10年後のことであった。

 しかし、それがステーシア王妃の発案であったことや、開発に成功して実用化されていたことは、最重要国家機密である。



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