砂浜に描いたうたかたの夢

唇に触れた温もり

──ピピッ、ピピピッ。



頭上で目覚まし時計が鳴り出した。眉間にシワを寄せながら腕を伸ばす。

午前5時。今日もピッタリ時間通り。


アラームを止めて起き上がり、まだ眠っている伯母と智を起こさないよう、そっと襖を開けて部屋を出る。

薄暗い廊下を歩いていると、洗面所の引き戸がゆっくりと開いた。



「あら、一花ちゃん。おはよう」

「おはよう。ひいおばあちゃん」



起きたばかりの曾祖母と挨拶を交わした。

前髪が少し濡れている。一足先に洗顔を済ませたようだ。



「今日もヒロマサと散歩かい?」

「うんっ。また寝てるけど、今日は智も一緒に行くつもりだよ」

「おおそうかい。ジョニーも嬉しいだろうねぇ」



「良かったねぇ」と目を細めた曾祖母。その場で数秒ほど立ち話をした後、曾祖母と別れて洗面所に入った。

……やっぱり。さっきので確信した。


鏡の前に立ち、髪の毛を後ろで結ぶ。

一昨日行った長寿祝いを境に、曾祖母は私を見て「タダシさん」と呼ぶことはなくなった。
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