砂浜に描いたうたかたの夢
目の前に広がる青々とした海。

ついさっきまで顔を出していたはずの理桜の姿がどこにも見当たらない。



「理桜⁉ どこいった⁉ 理桜っ⁉」

「浅浜っ! 落ち着け!」



取り乱した俺に鋼太郎が後ろから何度も声をかける。

だけど、目の前で友人が忽然と姿を消して、平常心を保てるわけがない。


まさか、あいつ……っ。


絶望の淵に立たされた瞬間、遥か遠くの海面に人の顔が浮かんでいるのが見えた。



「理桜……っ!」

「馬鹿っ! 浅浜! 戻れ!」



鋼太郎の腕を乱暴に振り払い、バシャバシャと水しぶきを立てて駆け出す。


ふざけるな。言い出しっぺがなんで溺れてるんだよ。

勝手に写真撮りやがって。パスワードも設定も変えやがって。

チャラいとか、女顔だとか、散々俺のこと馬鹿にして貶しやがって。



『俺ら、ユニセックスネーム同盟だろ?』

『だだっ広い海を見て癒やされようぜ!』



じわじわと涙で視界が滲んでいく。


黙って先にいくなんて絶対に許さない。

俺──まだお前に何も返せていないのに。
< 294 / 322 >

この作品をシェア

pagetop