砂浜に描いたうたかたの夢
後方で呼び止める声が何度も聞こえてくるけれど、無視して得意のクロールで理桜の元へ向かう。


理桜はサッカー部だけど、俺は水泳部。

着衣泳の講習は水泳教室と部活で何度も受けてきた。それに、これまで大会で何度も賞を取ってきた。だから大丈夫。

そう確信していたけれど……俺は、自分の力を過信していた。



「うぐっ」



先月受けた講習はもちろん波はなく、自然の力は予想以上に凄まじかった。

地面を蹴って進もうとしても、足場がなくて。いつの間にか、自分が沖にまで来ていたことに気づいた。



「理桜っ、もう大丈夫っ」



押し寄せる波を避け続け、やっとの思いでたどり着いた。

しかし、パニックに陥っている人間を運ぶのはそう簡単にいかず。理桜は俺に全体重を乗せるように必死でしがみついてきた。


振り向くと、岸には豆サイズの友人達と大人達。
正確な距離は分からないが、確実に50メートルは流されている。


このまま救助を待つか?

だけど、いくらサッカー部のエースでも、あれだけもがけば体力を消耗しきっているはず。
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