砂浜に描いたうたかたの夢
どう動けばいいのかと考えていると、背後から波が襲いかかってきた。一瞬にして上半身が呑まれ、海水が口の中に流れ込む。


──怖い。

クラゲに刺された時とは比にならないほどの恐怖が全身を駆け巡る。

ダメだ。ここにいたら助けが来る前に沈んでしまう。

──早く逃げないと。


水を掻いて進もうとしたその時、力尽きたのか、理桜がずるりと背中から落ちた。


理桜……っ!


心の中で叫んで手を伸ばしたが、再び波が襲いかかってきて。避ける暇もなく、大きな衝撃が俺達を包み込んだ。







誰かのすすり泣く声で目を覚ました。

病室のような場所。だけど、薄暗く、天井も壁一面も真っ白。



「凪……っ、どうして……っ」



顔を左に向けると、声を詰まらせながら母が泣いていた。……オレンジ色の巾着袋を握りしめて。

母の隣には、姉がリュックサックを、兄は帽子を抱きしめていて。右には、嗚咽を漏らす祖父の肩を優しく擦る父の姿が。
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