砂浜に描いたうたかたの夢
緩んでいた表情から一変した、おふざけなしの真剣な表情。

私への……? 理桜さんやお友達、家族に対しての未練じゃなくて……?



「頼まれてた絵、贈れなかったから」

「あ……」



目まぐるしい毎日に気を取られて、すっかり忘れていた。前回と同様、凪くんに言われないと気づけなかったくらい。



「ずっと言えなかったけど、実はもう完成してるんだ。スケッチブックに描いてるから、後で母さんに聞いてみて」

「……分かった。ありがとう」



推しに描いてもらった絵を直接もらえるなんて、普通ならもっと笑顔を浮かべるはず。

飛び跳ねたくなるほど、活き活きとした声でお礼を口にするはず。


だけど、そのホッとしたような顔を見たら……。

もう未練は消えたんだな。
もうこの世界に留まる必要はないんだな。

瞬間的に思って、嬉しくも悲しい気持ちになった。


49日が終わっても、お盆が来ればまた会える。そう信じてたけど……なわけないよね。

その理屈なら、帰省中、ひいおじいちゃんに会っているはずだから。何も気配を感じなかったというのは……つまりはそういうことだ。
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