砂浜に描いたうたかたの夢
「一花」



唇を噛んで込み上げてくる感情を抑えていると、凪くんが私の手の甲に手のひらを重ねてきた。



「これから先、大人になったら社会に揉まれて、性格が尖ったり削れたりするかもしれないけど、一花にはいつまでも、素直で真っ直ぐでいてほしい」

「……分かった」

「お父さんもだけど、お母さんや弟くんとも仲良くするんだよ」

「っ……頑張る」



凪くんお得意の優しい命令。最後の日までも、年上の権力を振りかざしてきた。



「俺、一花ちゃんに会えて良かった。今も、これからもずっと……一花ちゃんのことが大好きだよ」

「私も……っ、凪くんのこと、大好きだよ……っ」



愛してやまない人からの告白に涙腺が崩壊しそうになった。

けど、ここで泣いたら余計お別れが辛くなってしまう。


凪くん自身もそれを分かっているみたいで、目は少し潤んでいるものの、笑顔を浮かべている。

だから私も、笑顔で伝えた。



「おいおい……俺のこと、散々貶したのに?」

「だって……っ」
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