砂浜に描いたうたかたの夢
「私にしか」というズルい言い方プラス、真剣な眼差し。返事の選択肢を「はい」のみにする超強力な合わせ技。


推しの描きかけの絵を代わりに描くって、長い人生の中でもなかなかない。

私に務まるのか少々不安はあるけれど……最後のお願いだから、引き受けることにした。



「あと、パスワードなんだけど……1回しか言わないからよく聞いて」

「ええっ」



どうして1回だけなんだ。聞き逃したらもう2度と開けなくなるかもしれないというのに。

耳を近づけると、凪くんは1文字ずつゆっくりと囁いた。



「……本当に? 凪くんが今作ったわけじゃなくて?」

「作ってないよ。あいつが、ハッキリそう言ってたから」



凪くんいわく、お葬式に出席した時に教えてもらったのだそう。

にわかには信じがたいが、忘れないように、心の中で何度も復唱しながら腰を上げる。



「じゃあね一花。今まで本当にありがとう。最後、ちょっとからかってごめんね」

「ううん。私こそごめんね。凪くんと過ごせてとても楽しかったよ。ありがとう」
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