砂浜に描いたうたかたの夢
「頑張ったのに、潰れちゃったのは辛かったね」

「あぁ。まだ一花が生まれて2年くらいの時だったからな」

「ええっ⁉ 私生まれてたの⁉ 生活は大丈夫だった⁉」

「大丈夫。お母さんが仕事してたから、収入危機に陥ることはなかったんだ。ただ……あの時はまた心が折れそうになったよ」



明かしてくれた昔話は壮絶なものだった。

再就職するまでの約5ヶ月間、働きに出る妻を支えるため、家事と私のお世話を両立しつつ、求職活動に奮闘していたのだそう。


ただでさえ、子供のお世話は精神と体力がすり減るって言われてて大変なのに。仕事も探していただなんて……。



「……お父さん、すごく頑張ったんだね。私だったら絶望して引きこもってる」

「そうか? まぁ、家族のためだからな」

「それでも本当にすごいよ! クニユキ……あなた頑張ったのね!」



祖母のマネをして再度褒めると、父は「……なるほどな」と納得したように笑った。

伯母さんとおばあちゃんが、驚愕して感涙した理由がようやく腑に落ちた。



「一花はお母さんに似てほしかったんだが……馬鹿なお父さんの遺伝子を受け継がせてごめんな」

「いやいや! 進学校に入れたんだからそこまで馬鹿じゃないはずだよ! ……まぁ、酔い潰れるところは擁護できないけど」

「……それは本当に申し訳ない」
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