拝啓 夏霞に迷い込んだ君へ
8月1日

僕は昔住んでいたこの村に1ヶ月滞在することになった
そして僕は
君に出会った

僕は村の小さな無人駅のベンチに腰を下ろしていた ここはいい日陰になる
周りの木々にはたくさんの蝉が集まり、そうだな、蝉時雨、とでも呼ぼうか、というか、
「あつ、」
「暑いねぇ〜」
僕はびっくりして声のする方を見た
まさかこんな田舎の無人駅に人がいたなんて、独り言を聞かれたのがとても恥ずかしかった
「えっと、あの、」
そんな感じでもごもご話していると
「君、この辺りの子じゃないよね?」
「え?」
「ほら、ここ小さな村だし、村人はだいたい把握してるんだよね、」
なるほど、それなら納得だ、
「今日、こっちに来たんです、親の都合で1ヶ月間祖母の家で過ごすんです」
「なるほど!っていうか、すごいかしこまるね笑 そんなに緊張しないでよ」
そんなの無理だ、サラサラで透き通るような黒髪、真夏とは思えないほどの真っ白い肌、少し青みがかった瞳はまるで全ての闇を包み込むような青、いや、蒼、と言うべきだろうか、
少なくとも日本人とは思えない
「あはは、えっと、あなたはこの辺に住んでるんですか?」
「えぇ、 この辺り、そうね、近いと言えば、近い、かな、」
そんなに近くはないんだろうな、察しよう、うん、
「ところでどうして駅なんかに?どこかに行くの?」
どうして駅に?は、こっちも聞きたいよ、
「えっと、さっきまで荷物整理してたので息抜きに、と、」
「なるほど!確かにここあんまり人来ないよね、私もよく来るんだぁ、っていうか、毎日!」
常連のようだ、大人しく家に戻ろうかと腰をあげようとしたとき
「ねぇ!名前!」
「はへ?」
「はへってなに笑笑 名前だよ 君の名前!」
「あっ、えっと、、あの、」
「ん?どうしたの?」
「いや、変な名前なんで、その、えっと、」
「言ってよ 私絶対笑ったりしない」
彼女の美しい瞳は真っ直ぐ僕を映した
「……きら、中村 綺羅 (なかむらきら)、です」
「きら? 全然変じゃないじゃん笑笑笑 」
「あっ、笑わないってゆったのに!」
「ごめんごめん笑だって、あまりにも君が真剣に変だって言うからさ笑どんな強烈なのが来るかと思ったら笑笑」
なんて人だ、
「いいじゃん、きら 私は好きだよ、その名前」
「じゃぁ、あなたは、あなたの名前」
「私?…んー」
なんだ?名前くらいすっと言えばいいのに、人のこと言えないけど、
「ひみつ♡」
「え!?」
「だって すぐ教えたら面白みがないじゃん♡だーかーら! またこんど、ね?」
「まっ、それずるい」
「えへへ」
そう言って笑う彼女の笑顔はまるで、有名な画家が描いた絵画のように僕の脳内に、ハッキリと染み込んでしまった
「そうだ、また会おうよ」
「え?」
「私!君のこともっと知りたい」
……これだから恋愛経験浅いやつは、こんな一言にすぐに胸が高鳴ってしまう、我ながらチョロすぎる、
そして、少し返答に困った末
「はい、僕もあなたのこと知りたいです」
「えへへ またねきらくん♪」
「はい、また」
そう言って彼女は少し日が暮れた駅から姿を消した
「帰らないと、」
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