【激辛エロティックホームドラマ】いやたい水着
プロローグ・はぐいたらしい次兄嫁(あによめ)
時は2021年9月8日の夕方5時過ぎのことであった。
場所は、松山市保免中(ほうめんなか)の国道56号線沿いにあるユニクロの店内にて…
パート従業員の茂西さおり(46歳)は、夕方5時30分アップが近づいたので、陳列棚に商品を補充する作業を加速させた。
そんな時に、30代くらいの女性店員がウキウキした表情でさおりのもとにやって来た。
女性店員は、ウキウキした表情でさおりに言うた。
「さおりさん、さおりさん。」
さおりは、つらそうな表情で女性店員に言うた。
「なによぅ…アタシは今、急いでいるのよ。」
女性店員は、ウキウキした声でさおりに言うた。
「今夜、さおりさんも一緒に行くよね。」
「(つらそうな表情で)ほやけん、どこへなにしに行くのよぉ~」
「今夜は、みんなでごはんを食べに行くのですよ。」
女性店員から急に言われたさおりは、ものすごくつらい表情で言うた。
「聞いてないわよぉ~」
女性店員は、生ぬるい声でさおりに言うた。
「さおりさん、どうして参加しないのですか?」
「(つらそうな表情で)アタシは、仕事が終わったら子供たち3人を迎えに(一時預かりの児童保育)施設へ行くのよ!!」
女性店員さんは、ますますつらそうな表情でさおりに言うた。
「そんなぁ~」
「うちは、ダンナと子供たち3人がいるのよ!!」
「分かってますよぉ~」
「一時預かりの施設で親の帰りを待っている子どもたちの気持ちなんか、あんたにはわかんないよね…」
「(オキラクな声で)うちは…家が恵まれていたから…わかんない…」
「自慢げに言われん!!」
「さおりさん、さおりさんはダンナさまの親きょうだいたちと同居しているよね。」
「してるわよ…だけど、義父は家族みんながそろって朝夕のごはん食べることを楽しみにしているのよ…アタシとダンナと子供たち3人がおらんとごはんおいしくないと言うてるのよ!!」
「だから行かないのですね…さおりさんは冷たい人ですね。」
さおりは、女性店員が言うた言葉にカチンと来た。
「あんた、ケンキョと言う字を辞書ひいて調べなさい!!」
さおりに怒られた女性店員は、しおらしい声で『すみませんでした…』とさおりにわびた。
さおりは、あつかましい声で言うた。
「だいたい、なにが目的でみんなでごはんを食べに行くのよ!?」
さおりの問いに対して、女性店員は『失恋した仲間をなぐさめるため…』と答えた。
さおりは、ものすごくあきれた声で言うた。
「失恋した仲間をなぐさめるって、どういうことかしら?」
女性店員は、ますますつらそうな表情でさおりに言うた。
「マヤちゃん…10日前にフラれたのよ。」
「フラれたって…」
「だから、愛結び(愛媛県のお見合い事業)でお見合いをした銀行員の男性にフラれたのよ…」
「ほんなら、(愛結びの)事務局に頼めばいいじゃないのよぉ…」
「だけど、マヤちゃんは銀行員の男性が好きだったのよ…結婚まであと一歩のところでフラれたのよ…」
「はぐいたらしいわね!!だいたいなんでマヤちゃんの失恋をなぐさめるためにアタシが行かないといかんのよ!?」
さおりは、ものすごく怒った声で女性店員に言うた。
女性店員は、ますますつらそうな表情でさおりに言うた。
「さおりさん、今日の集まりはどうしてもさおりさんにきてほしいからお願いしているのよ!!」
「あんたね!!ハイリョと言う字を辞書ひいて調べなさい!!」
「すみませんでした…だけど、さおりさんがいないとマヤちゃんが元気になれないの…お願いですから参加してください!!…イヤ!!」
ブチ切れたさおりは、女性店員の顔をし烈な力を込めて50回以上たたいた。
叩かれた女性店員は、メソメソメソメソ泣きまくった。
さおりは、プンとした表情で仕事を続けた。
店内にいた客たちは、たたかれた女性店員を口々になじりまくった。
夕方5時半を過ぎた頃であった。
仕事を終えたさおりは、従業員口から外へ出ようとした。
しかし、イベントを企画した女性店員さん(32歳くらいの未婚)に出口をふさがれた。
イベントを企画した女性店員さんは、さおりにどうしても参加してほしいとせがんだ。
1年前にマヤちゃん(フラれた女性店員さんのこと)がここへ入った時、さおりが1から仕事を教えたイキサツがあった…
マヤちゃんが数人のバイト店員からいじめを受けていた時、さおりが助けたイキサツがあった…
マヤちゃんがさおりを頼っている…
さおりの顔を見れば、マヤちゃんが元気になれる…
企画した女性店員さんからそのように言われたさおりは、仕方なくイベントに参加することにした。
さおりは、3人の子どもたちを預けている一時預かりの施設に電話をかけて、あと3時間ほど延長してくださいとお願いした。
時は、夕方6時40分頃であった。
ところ変わって、伊予市灘町(なだまち)にある特大サイズの和風建築の家にて…
家は、25人家族が暮らせる規模の大きな家である。
家に住んでいる家族は、さおりの夫・紀世彦(きよひこ・50歳・銀行員)の親きょうだいたちが暮らしている。
夫・紀世彦とさおりの連れ子・なおと(中2)とふみこ(小3)とまりよ(4歳)の1世帯と紀世彦の両親・はじめとかなえ(70代後半)と紀世彦の3人の弟の妻・あやみ(39歳・次男の嫁)と玲香(33歳・三男の嫁)と里香(32歳・四男の嫁)とシングルの五男・卓(すぐる・31歳・工場従業員)の合計12人がひとつ屋根の下で暮らしている。
次男・三男・四男は、出稼ぎでうんと遠くへ行ってるので、不在である。
(次男・三男・四男は、3人とも農業従事者である)
場所は、20畳の大広間にて…
テーブルの上には、あやみが作った晩ごはんが並んでいる。
テーブルの前に、はじめとかなえとあやみと玲香と里香と卓の6人がいた。
さおりと3人の子どもたちは、食卓にいなかった。
この時、ダークグレーのスーツ姿の紀世彦がものすごく激怒した様子で帰宅した。
紀世彦は30分ほど前に帰宅したが、その時にあやみから『あと30分ほど待って…』と言われて家から追いだされた。
その後、あやみは紀世彦に電話をして『帰ってきてもいいよ…』とやさしい声で言うた。
紀世彦は、食卓へ入るなりにあやみのこめかみをグーで殴りつけた。
それが原因で、大ゲンカが発生した。
かなえは、泣き叫ぶ声で紀世彦に言うた。
「紀世彦!!なんであやみさんを殴るのよ!?」
紀世彦は、し烈な声でかなえを怒鳴りつけた。
「あやみに落ち度があったから殴りつけた!!30分ほど待ってと言うてオレを追いだしたあとオドレらなんしよったんぞ!?」
端で聞いていたはじめは、つらそうな表情で紀世彦に言うた。
「なんでそんなにおらぶんぞ…あやみさんは、味付けがまだできていないからもう少し待ってと言うたんぞ…」
(ガツーン!!)
ブチ切れた紀世彦は、ジュラルミンケースではじめの顔を正面から殴りつけた。
「ああああああああああああああああああああああああああああ!!」
かなえは、泣きそうな声で紀世彦に言うた。
「紀世彦!!なんでおとーさんを殴るのよ!?」
「やかましいだまれ!!オドレら!!ぶっ殺してやる!!ワーッ!!」
(ガシャーン!!)
紀世彦は、あやみが作った晩ごはんをテーブルごとひっくり返した。
テーブルの上に置かれていた食器がいきおいよく壊れた。
紀世彦は、ワケの分からない言葉をさけびながら家中を暴れ回った。
はじめとかなえとあやみと玲香と里香と卓は、紀世彦がこわいのでその場にうずくまって震えていた。
その中で、卓は『兄さんごめんなさい…』とくり返して言うた。
またところ変わって、松山市二番町の一方通行路(西堀端・市役所方面へ向かう方)の通りにある牛角(焼き肉屋)にて…
家で大規模な暴動が発生した頃、バイト仲間に無理やり連れ出されたさおりは焼き肉屋で晩ごはんを食べていた。
さおりは、ソワソワした表情で腕時計を見ていた。
それなのに、バイト仲間たちはマヤちゃんが元気になるようにと思ってアレコレいらんことしよった。
ほやけん、マヤちゃんはますます悲しい表情を浮かべた。
バイト仲間たちは、マヤちゃんが元気になるようにやさしく声をかけた。
『マヤちゃん、元気になってよ…』
『マヤちゃんのつらい気持ちはよくわかるよ…』
『マヤちゃんは、ひとりじゃないよ…』
『ぼくたちがいるじゃないか…』
『マヤちゃんをほっとけない男は、まだたくさんいるよ。』
『元気になったら、また一緒にバイトしようよ…』
『ぼくたちがいるから大丈夫だよ。』
かれらはマヤちゃんにやさしく声をかけているけど、マヤちゃんの耳にはかれらの声は届いていなかった。
そのせいで、マヤちゃんが大泣きした。
かれらは、ものすごく弱った表情を浮かべた。
困った…
マヤちゃんは、ぼくたちにどうしてほしいんだよ…
ぼくたちは、マヤちゃんが元気になれるように一生懸命に尽くしているんだよ…
この時、男性従業員のひとりが別の男性従業員に怒りをぶつけた。
「コラ!!コラといよんのが聞こえんのか!?」
「おめえ、急になにいよんぞぉ…」
「オドレさっきマヤちゃんになに言うたんぞ!?」
「オレは、マヤちゃんに新しい恋人ができたらいいねと言うたんや…」
「それがいかんのやと言うとんや!!オドレ、マヤちゃんに『男はくさるほどいるから大丈夫だよ』と言うたな!!」
「ほやけん、おめえはなに怒ってんねん…」
「オドレのせいでマヤちゃんが泣き出したと言うことに気がつけよボケ野郎!!」
(ガツーン!!)
男性従業員は、もうひとりの男性従業員の左腕をし烈な力を込めてグーで殴りつけた。
「なにすんねん!!」
殴られた男性従業員は、殴った男性従業員の左腕をし烈な力を込めてグーで殴り返した。
「よくもオレを殴りつけたな!!」
「ふざけんなよクソ野郎!!」
「オドレやるんか!?」
「ふざけんなよクソボケ野郎!!オドレはマヤちゃんにいらんことしよったけん、ぶっ殺してやる!!」
「ふざけんなよ!!オドレいつからマヤちゃんのカレになったんぞ!?」
「だまれクソボケ!!」
(ガシャーン!!)
ブチ切れた男性従業員は、もうひとりの男性従業員の頭をビール瓶で殴りつけた。
「ヤロー!!ぶっ殺してやる!!」
このあと、男性従業員同士が店内で乱闘騒ぎを起こした。
その上に、男性従業員7~8人が乱闘に加担した。
さおりは、冷めた目つきで店から出て行った。
女性従業員たち8人は、男性従業員たちがこわいのでその場にうずくまって震えていた。
マヤちゃんは、し烈な叫び声をあげて泣きさけんだ。
この時、巡回中の松山東警察署の刑事たち30人が店内に突入した。
男性従業員たちは、刑事たちに取り押さえられたあと警察署へ連行された。
女性従業員たちとマヤちゃんは、ケーサツに保護されたあと警察署の生活安全課で家族が迎えに来るまで待機することになった。
事件が発生した時、店内にいた客はかれらだけだった。
さて、そのころであった。
店から逃げ出たさおりは、JR松山駅の近くにある女性専用のカプセルホテルで夜を明かした。
さおりは、翌朝5時過ぎにホテルを出た。
JR松山駅から始発の伊予市行きの電車に乗って伊予市駅まで乗った。
JR伊予市駅で電車を降りたさおりは、3人の子どもたち待っている一時預かりの児童施設へ向かった。
3人の子どもたちを引き取ったさおりは、なおととふみこをそれぞれの学校へ連れて行った。
なおととふみこを学校へ送り届けたさおりは、まりよを連れて家へ向かった。
その時に、家庭内でもめ事が発生した。
時は、朝7時5分頃であった。
ところ変わって、灘町にある特大サイズの家にて…
家の台所で、あやみが料理をしていた。
あやみは、朝ごはんを作る前に近所の家のふたりのお子さん(高2の男の子と中2の女の子)のお弁当を作っていた。
近所の家は、共稼ぎの世帯である。
この時、中2の長女ちゃんのお弁当ができあがった。
あやみは、高2の長男くんのお弁当を作らずに家族が食べる朝ごはんを作り始めた。
それから3分後であった。
黒のレディーススーツ姿の奥さまが勝手口から入ってきた。
「あやみさん。」
「ああ、蛤(はまぐり)さんの奥さま。」
「お弁当はできました?」
「できてますよ…」
あやみは、奥さまにできあがったお弁当箱を渡した。
お弁当箱を受け取った奥さまは、ものすごく不安な表情であやみに言うた。
「あやみさん…ちょっとあやみさん。」
「はい?」
「タカヤ(長男)のお弁当は?」
「えっ?」
「(長女)のお弁当は作ったのに、タカヤのは作らないの?」
あやみは、ものすごく言いにくい声で奥さまに言うた。
「ああ、作るわよぉ~」
「早く作ってよ!!」
「作ります…だけどその前に、奥さまに聞きたいことがあるので、そのあとに作ります!!」
「こっちは急いでいるのよ!!10時から大事な会議があるのよ!!」
「作ります!!だけどその前にうちの話しを聞いてよ!!」
そこへ、白のシャツと黒のズボン姿の長男くん…いえ、タカヤがやって来た。
タカヤの顔の左のほほに深さ5センチ前後の引っかき傷があった。
それを見た奥さまは、おたついた表情でタカヤに言うた。
「タカヤ!!その傷どしたん!?」
奥さまの呼びかけに対して、タカヤははぶてた(ひねた)表情を浮かべた。
「タカヤ!!お母さんに言うて!!だれにやられたのよ!?」
あやみは、奥さまに心配げな声で言うた。
「奥さま、きょうはお休みにした方がよろしいのでは…」
それを聞いた奥さまは、あつかましい声であやみに言うた。
「あんたは、うちらに命令するつもりかしら!?」
あやみは、心配げな声で奥さまに言うた。
「奥さま!!奥さまはなにも知らないのですか!?きのうの夕方頃に、丸穂(まるお)さんの奥さまから話しを聞いたのよ!!」
「丸穂さんの奥さまからどんな話しを聞いたのよ!?」
「丸穂さんの家の息子さんが、男子生徒たちからお弁当を食べられるいじめを受けたのよ!!もしかしたらと思ってききよんよ!!」
それを聞いた奥さまは、あつかましい声であやみに言うた。
「あやみさんは、うちの子が丸穂くんのお弁当を食べたと言いたいのかしら!?」
「とにかく今日一日は休んでください!!うちはこれから家族が食べる朝ごはんを作らないといかんのよ!!」
「そんなことはいいから早くお弁当を作ってよ!!」
端で聞いていたタカヤがブチ切れた。
「お弁当なんかいらねーよ!!」
「タカヤ!!」
「ふざけるな!!茂西の家が作ったクソまずい弁当なんかいらねーよ!!」
「わがまま言われん!!」
(パチーン!!)
奥さまは、タカヤの顔をし烈な力を込めて平手打ちで叩いたあと、タカヤを怒鳴りつけた。
「タカヤ!!なんてこと言うのよ!!せっかく茂西の家の奥さまがあんたと(妹)のためにお弁当を作っているのよ!!奥さまは、タカヤと(妹)のために必死になって献立を考えているのよ!!」
「ふざけるな!!」
「わがまま言われん!!お弁当を作ってもらいなさい!!」
そこへ、かなえが台所へやって来た。
「ちょっと!!蛤さん方の奥さま!!朝からギャーギャーおらばんといてくれるかしら!!」
奥さまは、かなえに怒った声で言うた。
「オシュウトメさん!!うちは困っているのよ!!あやみさんがタカヤのお弁当を作っていないのでお弁当を作ってほしいと頼んでいるのよ!!」
「それは蛤さんの奥さまが全部悪いのよ!!子どもたちをないがしろにして仕事仕事仕事仕事仕事仕事仕事仕事…と言うて逃げ回っているじゃないのよ!!ハヤベンするセガレに作るお弁当なんかありません!!」
「それじゃ、どうすればいいのですか!?」
「知らないわよ!!」
ちょうどその頃であった。
さおりとまりよが帰宅した。
ふたりが家の敷地に入ろうとした時に、制服姿のタカヤがワーワー泣き叫びながら家から出てきたのを目撃した。
「ふざけるな!!弁当なんかいらねーよ!!ワーワーワーワーワーワーワーワーワーワー!!」
つづいて、黒のレディーススーツ姿の奥さまが出てきた。
「タカヤ!!待ちなさい!!お弁当を持たずに学校へ行くなんて絶対にダメよ!!茂西の奥さまにお弁当を作ってもらいなさい!!お母さんの言うことを聞きなさい!!」
このあと、奥さまはブツブツ言いながら会社へ向かった。
なにがあったのよ一体…
さおりは、ひどくコンワクした。
さおりとまりよが玄関に着いた時であった。
この時、台所の方でかなえとあやみが怒鳴りあいをしているのが聞こえていた。
「義母さま!!アタシに蛤さん方のふたりの子どもたちのお弁当を作るなって、どう言うことですか!?」
「あやみさん!!お人よしもいいかげんにしなさいよ!!」
「蛤さん方のダンナさまは、ヤンゴン(ミャンマー)に単身赴任中なのよ!!奥さまは、ミウラ(三浦工業)の商品開発部の部長で大事な仕事を任されているのよ!!」
「はぐいたらしい嫁ね!!あんたはいつから口答えするようになったのよ!!」
「義母さまこそなによ!!」
かなえとあやみがし烈な声で大ゲンカをしていたのを聞いたさおりは、まりよを連れて家から出た。
(ザザーン、ザザーン、ザザーン…)
ところ変わって、五色姫海浜公園のビーチにて…
さおりとまりよは、荒れ狂う海を見つめていた。
まりよは、つらそうな声でさおりに言うた。
「ねえママ…ママ…」
まりよがさおりを呼んでいるのに、さおりの耳にまりよの声が届いていなかった。
「ママ…」
さおりは、まりよに声をかけた。
「まりよ。」
「ママ…アタシ…イヤ…」
「イヤって…」
「アタシ、イヤ…なんで茂西の家に来たのよ…もとのおうちに帰りたい…」
「ごめんね…もとのおうちは流されたのよ…他に行くところがないのよ…」
「イヤ、茂西の家なんかイヤ…」
「ごめんね…ごめんね…だけど、茂西の家しか居場所がないのよ…新しいおうち作るおカネがないのよ…」
「なんでないのよぉ~」
さおりは、つらそうな声でまりよに言うた。
「ごめんね…ごめんね…ママ…がんばって貯金作るから…貯金作って、お兄ちゃんとお姉ちゃんとまりよが心から安心できる家を買うから…それまでガマンしてね…」
さおりは、ものすごくつらそうな表情で海をながめながらつぶやいた。
なおと・ふみこ・まりよ…
ごめんね…
こんなひ弱なママを許してね…
帰るおうちは…
3年前の(西日本)豪雨で流されたのよ…
茂西の家しか、居場所がないのよ…
わかって…といよんのに…
なんでわかってくれんのよ…
ママ…
つらい…
場所は、松山市保免中(ほうめんなか)の国道56号線沿いにあるユニクロの店内にて…
パート従業員の茂西さおり(46歳)は、夕方5時30分アップが近づいたので、陳列棚に商品を補充する作業を加速させた。
そんな時に、30代くらいの女性店員がウキウキした表情でさおりのもとにやって来た。
女性店員は、ウキウキした表情でさおりに言うた。
「さおりさん、さおりさん。」
さおりは、つらそうな表情で女性店員に言うた。
「なによぅ…アタシは今、急いでいるのよ。」
女性店員は、ウキウキした声でさおりに言うた。
「今夜、さおりさんも一緒に行くよね。」
「(つらそうな表情で)ほやけん、どこへなにしに行くのよぉ~」
「今夜は、みんなでごはんを食べに行くのですよ。」
女性店員から急に言われたさおりは、ものすごくつらい表情で言うた。
「聞いてないわよぉ~」
女性店員は、生ぬるい声でさおりに言うた。
「さおりさん、どうして参加しないのですか?」
「(つらそうな表情で)アタシは、仕事が終わったら子供たち3人を迎えに(一時預かりの児童保育)施設へ行くのよ!!」
女性店員さんは、ますますつらそうな表情でさおりに言うた。
「そんなぁ~」
「うちは、ダンナと子供たち3人がいるのよ!!」
「分かってますよぉ~」
「一時預かりの施設で親の帰りを待っている子どもたちの気持ちなんか、あんたにはわかんないよね…」
「(オキラクな声で)うちは…家が恵まれていたから…わかんない…」
「自慢げに言われん!!」
「さおりさん、さおりさんはダンナさまの親きょうだいたちと同居しているよね。」
「してるわよ…だけど、義父は家族みんながそろって朝夕のごはん食べることを楽しみにしているのよ…アタシとダンナと子供たち3人がおらんとごはんおいしくないと言うてるのよ!!」
「だから行かないのですね…さおりさんは冷たい人ですね。」
さおりは、女性店員が言うた言葉にカチンと来た。
「あんた、ケンキョと言う字を辞書ひいて調べなさい!!」
さおりに怒られた女性店員は、しおらしい声で『すみませんでした…』とさおりにわびた。
さおりは、あつかましい声で言うた。
「だいたい、なにが目的でみんなでごはんを食べに行くのよ!?」
さおりの問いに対して、女性店員は『失恋した仲間をなぐさめるため…』と答えた。
さおりは、ものすごくあきれた声で言うた。
「失恋した仲間をなぐさめるって、どういうことかしら?」
女性店員は、ますますつらそうな表情でさおりに言うた。
「マヤちゃん…10日前にフラれたのよ。」
「フラれたって…」
「だから、愛結び(愛媛県のお見合い事業)でお見合いをした銀行員の男性にフラれたのよ…」
「ほんなら、(愛結びの)事務局に頼めばいいじゃないのよぉ…」
「だけど、マヤちゃんは銀行員の男性が好きだったのよ…結婚まであと一歩のところでフラれたのよ…」
「はぐいたらしいわね!!だいたいなんでマヤちゃんの失恋をなぐさめるためにアタシが行かないといかんのよ!?」
さおりは、ものすごく怒った声で女性店員に言うた。
女性店員は、ますますつらそうな表情でさおりに言うた。
「さおりさん、今日の集まりはどうしてもさおりさんにきてほしいからお願いしているのよ!!」
「あんたね!!ハイリョと言う字を辞書ひいて調べなさい!!」
「すみませんでした…だけど、さおりさんがいないとマヤちゃんが元気になれないの…お願いですから参加してください!!…イヤ!!」
ブチ切れたさおりは、女性店員の顔をし烈な力を込めて50回以上たたいた。
叩かれた女性店員は、メソメソメソメソ泣きまくった。
さおりは、プンとした表情で仕事を続けた。
店内にいた客たちは、たたかれた女性店員を口々になじりまくった。
夕方5時半を過ぎた頃であった。
仕事を終えたさおりは、従業員口から外へ出ようとした。
しかし、イベントを企画した女性店員さん(32歳くらいの未婚)に出口をふさがれた。
イベントを企画した女性店員さんは、さおりにどうしても参加してほしいとせがんだ。
1年前にマヤちゃん(フラれた女性店員さんのこと)がここへ入った時、さおりが1から仕事を教えたイキサツがあった…
マヤちゃんが数人のバイト店員からいじめを受けていた時、さおりが助けたイキサツがあった…
マヤちゃんがさおりを頼っている…
さおりの顔を見れば、マヤちゃんが元気になれる…
企画した女性店員さんからそのように言われたさおりは、仕方なくイベントに参加することにした。
さおりは、3人の子どもたちを預けている一時預かりの施設に電話をかけて、あと3時間ほど延長してくださいとお願いした。
時は、夕方6時40分頃であった。
ところ変わって、伊予市灘町(なだまち)にある特大サイズの和風建築の家にて…
家は、25人家族が暮らせる規模の大きな家である。
家に住んでいる家族は、さおりの夫・紀世彦(きよひこ・50歳・銀行員)の親きょうだいたちが暮らしている。
夫・紀世彦とさおりの連れ子・なおと(中2)とふみこ(小3)とまりよ(4歳)の1世帯と紀世彦の両親・はじめとかなえ(70代後半)と紀世彦の3人の弟の妻・あやみ(39歳・次男の嫁)と玲香(33歳・三男の嫁)と里香(32歳・四男の嫁)とシングルの五男・卓(すぐる・31歳・工場従業員)の合計12人がひとつ屋根の下で暮らしている。
次男・三男・四男は、出稼ぎでうんと遠くへ行ってるので、不在である。
(次男・三男・四男は、3人とも農業従事者である)
場所は、20畳の大広間にて…
テーブルの上には、あやみが作った晩ごはんが並んでいる。
テーブルの前に、はじめとかなえとあやみと玲香と里香と卓の6人がいた。
さおりと3人の子どもたちは、食卓にいなかった。
この時、ダークグレーのスーツ姿の紀世彦がものすごく激怒した様子で帰宅した。
紀世彦は30分ほど前に帰宅したが、その時にあやみから『あと30分ほど待って…』と言われて家から追いだされた。
その後、あやみは紀世彦に電話をして『帰ってきてもいいよ…』とやさしい声で言うた。
紀世彦は、食卓へ入るなりにあやみのこめかみをグーで殴りつけた。
それが原因で、大ゲンカが発生した。
かなえは、泣き叫ぶ声で紀世彦に言うた。
「紀世彦!!なんであやみさんを殴るのよ!?」
紀世彦は、し烈な声でかなえを怒鳴りつけた。
「あやみに落ち度があったから殴りつけた!!30分ほど待ってと言うてオレを追いだしたあとオドレらなんしよったんぞ!?」
端で聞いていたはじめは、つらそうな表情で紀世彦に言うた。
「なんでそんなにおらぶんぞ…あやみさんは、味付けがまだできていないからもう少し待ってと言うたんぞ…」
(ガツーン!!)
ブチ切れた紀世彦は、ジュラルミンケースではじめの顔を正面から殴りつけた。
「ああああああああああああああああああああああああああああ!!」
かなえは、泣きそうな声で紀世彦に言うた。
「紀世彦!!なんでおとーさんを殴るのよ!?」
「やかましいだまれ!!オドレら!!ぶっ殺してやる!!ワーッ!!」
(ガシャーン!!)
紀世彦は、あやみが作った晩ごはんをテーブルごとひっくり返した。
テーブルの上に置かれていた食器がいきおいよく壊れた。
紀世彦は、ワケの分からない言葉をさけびながら家中を暴れ回った。
はじめとかなえとあやみと玲香と里香と卓は、紀世彦がこわいのでその場にうずくまって震えていた。
その中で、卓は『兄さんごめんなさい…』とくり返して言うた。
またところ変わって、松山市二番町の一方通行路(西堀端・市役所方面へ向かう方)の通りにある牛角(焼き肉屋)にて…
家で大規模な暴動が発生した頃、バイト仲間に無理やり連れ出されたさおりは焼き肉屋で晩ごはんを食べていた。
さおりは、ソワソワした表情で腕時計を見ていた。
それなのに、バイト仲間たちはマヤちゃんが元気になるようにと思ってアレコレいらんことしよった。
ほやけん、マヤちゃんはますます悲しい表情を浮かべた。
バイト仲間たちは、マヤちゃんが元気になるようにやさしく声をかけた。
『マヤちゃん、元気になってよ…』
『マヤちゃんのつらい気持ちはよくわかるよ…』
『マヤちゃんは、ひとりじゃないよ…』
『ぼくたちがいるじゃないか…』
『マヤちゃんをほっとけない男は、まだたくさんいるよ。』
『元気になったら、また一緒にバイトしようよ…』
『ぼくたちがいるから大丈夫だよ。』
かれらはマヤちゃんにやさしく声をかけているけど、マヤちゃんの耳にはかれらの声は届いていなかった。
そのせいで、マヤちゃんが大泣きした。
かれらは、ものすごく弱った表情を浮かべた。
困った…
マヤちゃんは、ぼくたちにどうしてほしいんだよ…
ぼくたちは、マヤちゃんが元気になれるように一生懸命に尽くしているんだよ…
この時、男性従業員のひとりが別の男性従業員に怒りをぶつけた。
「コラ!!コラといよんのが聞こえんのか!?」
「おめえ、急になにいよんぞぉ…」
「オドレさっきマヤちゃんになに言うたんぞ!?」
「オレは、マヤちゃんに新しい恋人ができたらいいねと言うたんや…」
「それがいかんのやと言うとんや!!オドレ、マヤちゃんに『男はくさるほどいるから大丈夫だよ』と言うたな!!」
「ほやけん、おめえはなに怒ってんねん…」
「オドレのせいでマヤちゃんが泣き出したと言うことに気がつけよボケ野郎!!」
(ガツーン!!)
男性従業員は、もうひとりの男性従業員の左腕をし烈な力を込めてグーで殴りつけた。
「なにすんねん!!」
殴られた男性従業員は、殴った男性従業員の左腕をし烈な力を込めてグーで殴り返した。
「よくもオレを殴りつけたな!!」
「ふざけんなよクソ野郎!!」
「オドレやるんか!?」
「ふざけんなよクソボケ野郎!!オドレはマヤちゃんにいらんことしよったけん、ぶっ殺してやる!!」
「ふざけんなよ!!オドレいつからマヤちゃんのカレになったんぞ!?」
「だまれクソボケ!!」
(ガシャーン!!)
ブチ切れた男性従業員は、もうひとりの男性従業員の頭をビール瓶で殴りつけた。
「ヤロー!!ぶっ殺してやる!!」
このあと、男性従業員同士が店内で乱闘騒ぎを起こした。
その上に、男性従業員7~8人が乱闘に加担した。
さおりは、冷めた目つきで店から出て行った。
女性従業員たち8人は、男性従業員たちがこわいのでその場にうずくまって震えていた。
マヤちゃんは、し烈な叫び声をあげて泣きさけんだ。
この時、巡回中の松山東警察署の刑事たち30人が店内に突入した。
男性従業員たちは、刑事たちに取り押さえられたあと警察署へ連行された。
女性従業員たちとマヤちゃんは、ケーサツに保護されたあと警察署の生活安全課で家族が迎えに来るまで待機することになった。
事件が発生した時、店内にいた客はかれらだけだった。
さて、そのころであった。
店から逃げ出たさおりは、JR松山駅の近くにある女性専用のカプセルホテルで夜を明かした。
さおりは、翌朝5時過ぎにホテルを出た。
JR松山駅から始発の伊予市行きの電車に乗って伊予市駅まで乗った。
JR伊予市駅で電車を降りたさおりは、3人の子どもたち待っている一時預かりの児童施設へ向かった。
3人の子どもたちを引き取ったさおりは、なおととふみこをそれぞれの学校へ連れて行った。
なおととふみこを学校へ送り届けたさおりは、まりよを連れて家へ向かった。
その時に、家庭内でもめ事が発生した。
時は、朝7時5分頃であった。
ところ変わって、灘町にある特大サイズの家にて…
家の台所で、あやみが料理をしていた。
あやみは、朝ごはんを作る前に近所の家のふたりのお子さん(高2の男の子と中2の女の子)のお弁当を作っていた。
近所の家は、共稼ぎの世帯である。
この時、中2の長女ちゃんのお弁当ができあがった。
あやみは、高2の長男くんのお弁当を作らずに家族が食べる朝ごはんを作り始めた。
それから3分後であった。
黒のレディーススーツ姿の奥さまが勝手口から入ってきた。
「あやみさん。」
「ああ、蛤(はまぐり)さんの奥さま。」
「お弁当はできました?」
「できてますよ…」
あやみは、奥さまにできあがったお弁当箱を渡した。
お弁当箱を受け取った奥さまは、ものすごく不安な表情であやみに言うた。
「あやみさん…ちょっとあやみさん。」
「はい?」
「タカヤ(長男)のお弁当は?」
「えっ?」
「(長女)のお弁当は作ったのに、タカヤのは作らないの?」
あやみは、ものすごく言いにくい声で奥さまに言うた。
「ああ、作るわよぉ~」
「早く作ってよ!!」
「作ります…だけどその前に、奥さまに聞きたいことがあるので、そのあとに作ります!!」
「こっちは急いでいるのよ!!10時から大事な会議があるのよ!!」
「作ります!!だけどその前にうちの話しを聞いてよ!!」
そこへ、白のシャツと黒のズボン姿の長男くん…いえ、タカヤがやって来た。
タカヤの顔の左のほほに深さ5センチ前後の引っかき傷があった。
それを見た奥さまは、おたついた表情でタカヤに言うた。
「タカヤ!!その傷どしたん!?」
奥さまの呼びかけに対して、タカヤははぶてた(ひねた)表情を浮かべた。
「タカヤ!!お母さんに言うて!!だれにやられたのよ!?」
あやみは、奥さまに心配げな声で言うた。
「奥さま、きょうはお休みにした方がよろしいのでは…」
それを聞いた奥さまは、あつかましい声であやみに言うた。
「あんたは、うちらに命令するつもりかしら!?」
あやみは、心配げな声で奥さまに言うた。
「奥さま!!奥さまはなにも知らないのですか!?きのうの夕方頃に、丸穂(まるお)さんの奥さまから話しを聞いたのよ!!」
「丸穂さんの奥さまからどんな話しを聞いたのよ!?」
「丸穂さんの家の息子さんが、男子生徒たちからお弁当を食べられるいじめを受けたのよ!!もしかしたらと思ってききよんよ!!」
それを聞いた奥さまは、あつかましい声であやみに言うた。
「あやみさんは、うちの子が丸穂くんのお弁当を食べたと言いたいのかしら!?」
「とにかく今日一日は休んでください!!うちはこれから家族が食べる朝ごはんを作らないといかんのよ!!」
「そんなことはいいから早くお弁当を作ってよ!!」
端で聞いていたタカヤがブチ切れた。
「お弁当なんかいらねーよ!!」
「タカヤ!!」
「ふざけるな!!茂西の家が作ったクソまずい弁当なんかいらねーよ!!」
「わがまま言われん!!」
(パチーン!!)
奥さまは、タカヤの顔をし烈な力を込めて平手打ちで叩いたあと、タカヤを怒鳴りつけた。
「タカヤ!!なんてこと言うのよ!!せっかく茂西の家の奥さまがあんたと(妹)のためにお弁当を作っているのよ!!奥さまは、タカヤと(妹)のために必死になって献立を考えているのよ!!」
「ふざけるな!!」
「わがまま言われん!!お弁当を作ってもらいなさい!!」
そこへ、かなえが台所へやって来た。
「ちょっと!!蛤さん方の奥さま!!朝からギャーギャーおらばんといてくれるかしら!!」
奥さまは、かなえに怒った声で言うた。
「オシュウトメさん!!うちは困っているのよ!!あやみさんがタカヤのお弁当を作っていないのでお弁当を作ってほしいと頼んでいるのよ!!」
「それは蛤さんの奥さまが全部悪いのよ!!子どもたちをないがしろにして仕事仕事仕事仕事仕事仕事仕事仕事…と言うて逃げ回っているじゃないのよ!!ハヤベンするセガレに作るお弁当なんかありません!!」
「それじゃ、どうすればいいのですか!?」
「知らないわよ!!」
ちょうどその頃であった。
さおりとまりよが帰宅した。
ふたりが家の敷地に入ろうとした時に、制服姿のタカヤがワーワー泣き叫びながら家から出てきたのを目撃した。
「ふざけるな!!弁当なんかいらねーよ!!ワーワーワーワーワーワーワーワーワーワー!!」
つづいて、黒のレディーススーツ姿の奥さまが出てきた。
「タカヤ!!待ちなさい!!お弁当を持たずに学校へ行くなんて絶対にダメよ!!茂西の奥さまにお弁当を作ってもらいなさい!!お母さんの言うことを聞きなさい!!」
このあと、奥さまはブツブツ言いながら会社へ向かった。
なにがあったのよ一体…
さおりは、ひどくコンワクした。
さおりとまりよが玄関に着いた時であった。
この時、台所の方でかなえとあやみが怒鳴りあいをしているのが聞こえていた。
「義母さま!!アタシに蛤さん方のふたりの子どもたちのお弁当を作るなって、どう言うことですか!?」
「あやみさん!!お人よしもいいかげんにしなさいよ!!」
「蛤さん方のダンナさまは、ヤンゴン(ミャンマー)に単身赴任中なのよ!!奥さまは、ミウラ(三浦工業)の商品開発部の部長で大事な仕事を任されているのよ!!」
「はぐいたらしい嫁ね!!あんたはいつから口答えするようになったのよ!!」
「義母さまこそなによ!!」
かなえとあやみがし烈な声で大ゲンカをしていたのを聞いたさおりは、まりよを連れて家から出た。
(ザザーン、ザザーン、ザザーン…)
ところ変わって、五色姫海浜公園のビーチにて…
さおりとまりよは、荒れ狂う海を見つめていた。
まりよは、つらそうな声でさおりに言うた。
「ねえママ…ママ…」
まりよがさおりを呼んでいるのに、さおりの耳にまりよの声が届いていなかった。
「ママ…」
さおりは、まりよに声をかけた。
「まりよ。」
「ママ…アタシ…イヤ…」
「イヤって…」
「アタシ、イヤ…なんで茂西の家に来たのよ…もとのおうちに帰りたい…」
「ごめんね…もとのおうちは流されたのよ…他に行くところがないのよ…」
「イヤ、茂西の家なんかイヤ…」
「ごめんね…ごめんね…だけど、茂西の家しか居場所がないのよ…新しいおうち作るおカネがないのよ…」
「なんでないのよぉ~」
さおりは、つらそうな声でまりよに言うた。
「ごめんね…ごめんね…ママ…がんばって貯金作るから…貯金作って、お兄ちゃんとお姉ちゃんとまりよが心から安心できる家を買うから…それまでガマンしてね…」
さおりは、ものすごくつらそうな表情で海をながめながらつぶやいた。
なおと・ふみこ・まりよ…
ごめんね…
こんなひ弱なママを許してね…
帰るおうちは…
3年前の(西日本)豪雨で流されたのよ…
茂西の家しか、居場所がないのよ…
わかって…といよんのに…
なんでわかってくれんのよ…
ママ…
つらい…