さつきの花が咲く夜に
 満留は背筋をぴんと伸ばして満を向くと、
頭を下げた。

 「じゃあ本当に図々しいけど、お言葉に甘
えさせていただきます。あ、でも満くんの
都合が悪かったら無理しないでね。来てみて
いなかったら、『ああ、今日は来ないんだな』
って私も一休みして帰るから」

 真剣な顔をしてそう言うと、満もまた真剣
な顔で「了解」と頷いた。

 「じゃあ火が降ったり、槍が降ったりし
たら危ないから来るのやめとく」

 どんな困難や障害があっても厭わない、と
いうことわざをもじってそう言った満に満留
は笑みを零す。今日、ここへ来てから数十分
しか経っていないというのに、泣いたり、
笑ったり、心が動いて忙しかった。

 満といると暗いばかりだった心に一筋の光
が射すようだと、白い灯りに照らされた中庭
を眺めながら、満留はひとりそう思う。

 夜の花影はひっそりと二人の時間を包み込
んでくれて、やさしかった。満留はその風景
に目を細め、乾きはじめた頬に涼風を感じて
いた。

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