さつきの花が咲く夜に
◇◇◇
『咲田市で住宅火災 住民一人死亡』
十二日未明、咲田市の住宅で民家一棟が
全焼する火事があり、四十代男性が死亡しま
した。
火事があったのは咲田市上中野の満さん宅。
十二日夜半に「黒い煙と炎が出ている」と
近隣住民から消防への通報が相次ぎました。
消防車など八台が駆け付け、火はおよそ二
時間後に消し止められましたが、この火事で
木造二階建ての住宅およそ百四十平方メート
ルが全焼。この家に住む満修二さん(四十八)
が救急搬送されましたが、まもなく死亡が確
認されました。
また、満さんの長男、――さん(十七)も
軽度の火傷と煙を吸うなどして救急搬送され
現在入院中。同居する妻の由紀恵さんは仕事
で家を出ていたため無事でした。
警察と消防は詳しい出火の原因を調べてい
ます。
◇◇◇
「……満って、苗字だったの?」
全文を読み終えた満留は、あまりの衝撃に
しばらく息をするのも忘れてしまった。
まさか、そんな。でも……と。
フリーズしかけた頭であの夜の記憶を辿る。
――俺は、満。満留さんと同じ字だよ。
あの時、彼は確かにそう言った。
けれど、『満』という名が苗字であるとは、
ひと言も言っていなかった。
その名を聞いた瞬間、自分が同じ字だね!
と、はしゃいでしまったから苗字だと言い
そびれてしまったのかも知れないけれど……。
そして、羅列する活字の中から見つけた、
彼の姓名。その名を見た瞬間、満留の全身を
どくりと熱い血が駆け巡る。そこに記されて
いる名に、見覚えがあったからだ。
もしかしたら同じ名前の人物かも知れない
という思考は、すぐに搔き消えてしまった。
バラバラと散らばっていたパズルのピース
が嵌まり、やがてその形が鮮明になってゆく。
――間違いなく、彼は生きている。
――そして、きっと自分を待っている。
満留はその新聞をカウンターの男性に印刷
してもらうと、四つに折り畳んでトートバッ
グにしまった。
真実を突き止めた胸はまだ鼓動が煩かった
けれど、図書館を出て歩き始めた満留の眼差
しは強く、じっと遠くを見据えていた。