初恋の人
午前七時四十分。
インターホンが鳴るやいなや、玄関へと急ぐ女の子――高岡結愛(たかおかゆうな)
自分の背中よりも大きなピンクのランドセルを背負っている。
その後ろを母の美智子が着いていく。

スニーカーを履き終えた結愛がドアを開けると、スーツ姿の青年が笑顔で立っていた。

「おはようございます」と美智子に挨拶するその青年は、マンションの隣人――伊藤康史(いとうこうじ)だ。
康史は身を屈めてもう一度、今度は柔らかな笑顔で言った。

「おはよう、結愛」

結愛は弾けんばかりの笑顔で康史にぎゅうっと抱きついた。

「康ちゃん、いつもごめんね」と美智子が言うと、「いえ、通り道なんで気にしないで下さい」と康史はにこやかな表情で返した。そして左手で結愛の手をしっかりと握り「行ってきます」と美智子に挨拶すると、続いて結愛も「行ってきまーす!」と満面の笑みを向けた。
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