憑かれた僕が彼女を助けるまでの備忘録
『特別、好きな人はいなかったけど。夢はパティシエになることだったよ。生きていたら三年制の専門学校に通うつもりだったの』

 彩羽はスマホのなかで暗い顔をし、ため息をついた。

 住んでいた場所は僕の家からそう遠くなく、隣町だ。両親と妹との四人家族で愛犬のチワワもいたらしい。好きなことは読書とお菓子作りで、将来は洋菓子店に勤めることを考えていた。

 心残りは、パティシエになれなかったことだろう。そう分かったところで、だからなんなんだと自問自答する。未練を解消するための次の一手が思い浮かばない。

 一度彼女に習って、クッキーを作ってみたが散々の結果になった。

『ごめんね、エイト』

 彼女との奇妙な共同生活を始めて十日も経つと、互いにおかしな情が湧き、僕たちは友達のような感覚で接するようになっていた。

「そういえば、彩羽さんっていつどこで亡くなったの?」

 朝食後。すでに常備薬と化した鎮痛剤をコップの水で流し込んだ。気休め程度で効いているかどうかは分からない。

 このときには両肩の重みに加えて、頭痛も起こるようになっていた。
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