憑かれた僕が彼女を助けるまでの備忘録
 彼女は少しのあいだ思案し、暗い表情のまま文字を並べた。

『時期は十二月のはじめごろで、確か六日だったかな。隣町の、信号のない横断歩道だったよ。赤いスポーツカーに撥ねられたの。学校帰りで暗かったから見えなかったんだと思う』

 十二月と考え、一年も前のことなのかと今さらながら驚く。

 今日は十二月四日の土曜日だ。試しにパソコンをたちあげ、警察がネット上で発表している事故や事件に関するページをひらいてみた。

 日時を去年の十二月六日と特定してしらべるものの、彩羽に関する記事は見つからなかった。

 僕は花屋で彼女好みの花を買い、事故現場に手向けることにした。電車に乗って五駅先で下り、徒歩でその交差点へ向かう。

 彩羽が事故に遭った横断歩道は、高架下をくぐり抜けてから渡るような道で、見通しが悪かった。地上から支えの台が建てられ、その上に鉄道が走っていた。

 ピンポイントで場所を聞き、渡った先の歩道に小さな花束を置いて手を合わせた。

 僕の想像では、てっきり遺族からの花が供えてあるものだと思っていたので、瓶も何もないことに違和感を感じた。

「あの……。どなたか、お亡くなりになったんですか?」
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