憑かれた僕が彼女を助けるまでの備忘録
 言ってみれば知らない人に話しかけるわけなので、声は弱々しく尻すぼみになった。音楽を聴いている彼女は当然気づかない。

 僕は奥歯をぐっと噛みしめて、スクールバッグの持ち手を握りしめた。

「三島彩羽さん!……ですよね?」

 彼女はピクンと肩を跳ね上げ、ふり返った。「え?」とつぶやきながら、片方のイヤホンを外す。僕に怪訝な視線を送った。

「あの? 今、なにか」

 言葉をつなげてから、彼女がハッと息をのむ。

「このあいだ……ここにいた子?」

 イロハがスクールバックに、イヤホンコードごとスマホを仕舞った。正直、僕と会ったことを覚えてくれているのがありがたかった。

「突然、声をかけてすみません。三島
彩羽さん、ですよね?」

「……はい」

「少しのあいだ。ほんのちょっとでいいんで、僕と話していてもらえませんか?」

「はい?」

「せめて。赤いスポーツカーが通り過ぎるまで」

 怪訝な表情をするイロハが、眉間に深くしわを寄せた。かなり不審がられている。当たり前だ。

もっと自然なかたちで引き留めなければいけないのに、僕にそこまでの能力が備わっていないせいだ。顔色の悪さも自覚している。
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