憑かれた僕が彼女を助けるまでの備忘録
 僕を危ない奴だと認識し、彼女の茶色いローファーが地面を擦った。僕と距離を開けている。

「危ないですよ」

「な、なにが?」

「ここ、見通し悪いし、暗いので。気をつけないと事故に遭います」

 僕を警戒して慌てて彼女が走り出さないように、僕も少しだけ距離を開けた。

「このあいだ」とイロハが声を発した。

「このあいだ置いてた花。あれのことを言ってるの?」

「そ。……そうです」

「なんで私のことを知ってるの?」

「ええと。それは……その」

 僕はうろたえ、頭をかいた。うまい言い訳が見つからない。

そもそも、目の前のイロハが助かれば会話なんてどうでもいいと思っていた。つまり、何を話そうかなんて全く考えていなかった。

 車道の向こうに黒いワンボックスカーが停まった。路上駐車だろうか。

車の行列が一度途切れた。横断のチャンスだが、彼女は僕を見ているため気づかない。

 そのとき、彼女の背後を猛スピードで走り抜ける赤色が見えた。

「あ」

 赤いスポーツカーだ。本来なら彼女が撥ねられたかもしれない車をやり過ごし、僕はほっと息をついた。

「すみません。もう大丈夫です」

「え?」
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