憑かれた僕が彼女を助けるまでの備忘録
「なに言ってるの」

　戸惑う僕とは対照的に、彼女は親しみを込めた笑みでくすくすと肩を揺らした。その雰囲気に言いようのない懐かしさを覚えた。

「二週間もエイトのスマホを占拠してたんだから、番号ぐらい知ってるってば」

　ハッと目が覚めるような感覚だった。驚きで心臓が高鳴った。

　彼女、三島彩羽のそのひとことで僕は全てを理解した。

　どうやら僕の立てた仮説は正しかったらしい。

　霊魂の彩羽は生者のイロハに吸い込まれ、一体化したのだ。だから目の前の彼女は、僕に憑いていた＂あの＂彩羽に間違いない。

　そして今のところ、一度死んだ彩羽がよみがえったことは、僕と彼女しか知らない事実だ。

「あのとき。さよならも言えずに消えちゃってごめんね？」

　僕より四つ年上で、パティシエの夢を叶えた彼女が、茶目っ気いっぱいに笑った。

　ところで、と僕は呟いた。

　彼女、三島彩羽に関しての備忘録をつけていたとき、とてもシンプルな疑問が湧いたのを今になって思い出す。

< 34 / 35 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop