憑かれた僕が彼女を助けるまでの備忘録
 結局のところ、「お戻りください」とお願いして“こっくりさん”を終わらせることにした。

「あれ?」

 しかしながら、十円玉はゆっくりと円を描くだけで、“はい”には進まない。もう一度「お戻りください」と言葉をかけ、ようやく十円玉が鳥居に向かった。

 返事は“いいえ”だ。

「おいおい」

「まじかよ」

 二人は焦燥を帯びた目で僕を見つめた。どうしよう、と顔に書いてある。ちゃんとした手順を踏まなければ終わりにできないらしく、僕も少しだけやばいと感じていた。

「こっくりさん、こっくりさん。どうぞお戻りください」

 それでも根気強くお願いすると、十円玉はさっきと同様にひらがなを一文字ずつ追い始めた。

『た・す・け・て』

「っうわぁ!」

 急なことに肩が跳ね上がった。背筋がゾワッと粟立ち、僕はつい人差し指を浮かせてしまった。

「あ。いたいた、渡辺」

 突然教室の扉を開けた女子が僕を名指しした。

「数学の小村先生がノートだせって言ってたよ?」

「あ。やべ」

 忘れてた。
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