雨上がり、また想いだせるように。
朝食を食堂で食べた後、虹空くんは夢の世界の街を案内してくれた。
「あ、このバス停……」
私は足を止める。
「初めて雨と出会った場所だね」
虹空くんも足を止めて、一緒に待合室へ入る。
改めて見てみると私が元の世界で住んでいた街にある待合室よりも随分狭く見える。
そういえば、この世界の街を歩いていたけれどバスが走っているのを今まで一度も見ていない。
「ここのバスってほんとに走ってるの?」
待合室の壁紙をじっと眺めている虹空くんに声をかけた。
「ううん。走ってない。この世界は決まった時間にバスが走るほど精密には出来ていなから」
やっぱり、ここは夢の世界で現実の世界をまねて作られた、あくまで仮の世界なんだ。
でも、精密に出来ていないからって、私はこの世界を離れようとは思えない。
模倣の世界でも私はこの世界のどこかに救いをみいだせると 信じているから。
「もう、そろそろ行こっか」
「うん」
待合室を出る。
今なら混乱しないでじっと見える町並み。あの時は怖くてたまらなかったのに、今では明るい太陽に包まれて心地よい。
「……ねえ、雨は海好き?」
「好きだよ?」
虹空くんに腕を掴まれる。
「じゃあ、一緒に行こ」
突然のことに驚いたけど、二人で走り出した。
虹空くんはもっと足が速いはずなのに、運動の出来ない私に合わせて速度を落として走ってくれる。
木々が開けて、きらきらと照らされている海が見えてきた。
「……綺麗」
そう呟くと顔は見えないけれど、虹空くんが微笑んだ気がした。