雨上がり、また想いだせるように。
すると、男の人は急に笑いだした。なんだか不思議で不気味な印象が強くなる。
「唐突だね。あ〜、面白い。こんなに笑ったのは久しぶりだよ。僕はね、君が思ってるような偉い人ではないよ」
「なら一体、あなたは……?」
「何者なんだろうね?」
私は諦めた。この人は、自分の正体を明かす気はないようで、正体に関する質問は、はぐらかされてしまう。
「もう、いいです」
「そんなに怒らないでよ」
「怒ってません」
私がそう言うと、頭上から聞こえてくる声は止まった。前に夢を見たときと同様、沈黙が流れる。
でも、前よりは長くなくて沈黙を気まずいとは思わなかった。
「“夢の世界”はどう?」
この人にしては珍しいやけに気遣っているような態度。声色。
「楽しいですよ。大事な人にも出会って」
そう、大事な人。
虹のようにみんなに好かれて、綺麗で、私を救ってくれて。
初めはただの夢の世界で仲良くなった人、そう思っていた。なのに、今では、私にとって必要不可欠、それくらい大事な人。
もし、いつか、夢の世界から出たいと思ったとき、彼と過ごした日々、彼の存在。それだけは忘れたくないと思えるほどに。