雨上がり、また想いだせるように。
『これは、何!!どういうことなのよ!!』
お母さんの怒鳴り声が部屋に居た時よりも鮮明に聞こえる。
虹空くんは流石に入る勇気がないのだろう、丁度、少し開いていたリビングのドアの隙間から様子をうかがう。
それは、修羅場という言葉だけでは表すことの出来ないものだった。
親の喧嘩というのは子供にとっては凄く怖いもので、それが酷ければ酷いほど、頭に残り続ける。
それも自分がお母さんにあげた花瓶が、お母さんの手によって割られていたら、一生、忘れることは出来ないだろう。
虹空くんのあげた花瓶は悲惨に赤い花と青い花と一緒に床に散らばっていた。
『最近ずっと、残業、出張って。あんた、不倫してたの?!』
お母さんがお父さんを睨みつける。
私は驚いた。こんな二人を見たことがなかったから。見ていなかったからといっても、私は三人の生活の一部分しか見たことがない。でも、こんな雰囲気は皆無だった。
虹空くんも驚いたように二人を見ている。
床に散らばった花瓶と同じように壊れてしまいそうな家族関係を。
お父さんはお母さんに怒鳴られても、無言を貫いている。お母さんのせいにせず、自分のせいにもせず。