黒幌に呑み込まれる
ぼこぼこに殴られていたのだ。
頬は腫れ、前歯が抜け落ちていた。

「と、とにかく、きゅ、救急車呼びますね!」

神楽は震える手で、スマホを操作する。
するとまた足音が聞こえてきて、今度は黒スーツの男性数人がこちらへ向かってきた。

殴られていた男性は、ビクッと震えて神楽の背中に隠れた。


「おい!さっきの威勢はどうした?半グレ野郎!
つか!女の後ろに隠れるって………情けねぇ…」
スーツ姿の男性の一人が言った。

「警…察…に、連絡…して…く…れ」
神楽に耳打ちする、男性。

神楽もしたいのは山々だが、手が震えてなかなかできないのだ。

「ほら、こっち来いよ!
かかってこい!!
散々、俺のシマ荒らしといてこれで済むと思うなよ!!」

どうしよう、どうしよう、どうしよう……

その言葉だけが、神楽の頭の中をぐるぐる回る。

(この人達、どう見ても……あっち関係の人達だよね……)

とにかく、この自分の背中で震えてる人を助けないと━━━━━と思い、神楽はスマホを必死に操作する。


すると、黒スーツの男性達がバッと真っ二つに割れた。

(え……な、何……!!?)

黒スーツの男性達とは比べ物にならない位の恐ろしさを纏った男性が、ゆっくり近づいてきた。

「え………」

逆光で男性の顔が見えないが、神楽にははっきりこの男性が誰かわかった。

この独特の雰囲気━━━━━

一人しかいない。

「………真…幌…どうし、て……」

「神楽」

この柔らかい声はいつもと同じなのに、纏っている雰囲気はまるで別人だ。


「━━━━━真幌は、三人いるの?三つ子なの?」


我ながら、能天気でバカみたいな言葉だ。

しかしそう言わざるおえない程、真幌の雰囲気は神楽の知っている真幌ではない。

咥え煙草の真幌。

「フッ!俺が三人もいたら、大変だよ?(笑)」
神楽の能天気な発言に、フッと笑った。

「そうだよね…」

「神楽。
そこ危ないから、こっちにおいで?」
両手を広げ、微笑む真幌。

しかし、神楽は躊躇する。

あまりにも恐ろしいからだ。
微笑みは、いつもの真幌だ。

でも……咥え煙草で真幌を包む雰囲気が、神楽の身体を動かなくしていた。


「ほら、かーぐら!おいで?」

「ま、真幌…」

すると、真幌がペッと煙草を吐き出した。


そして言い放った。
「神楽。
俺を見て?
俺の、目を、見て!」
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