篠崎にて
老人は席に座ってからというもの、ずっと窓の外を見ていた。もちろん窓の外には暗闇が続くばかりだったが。窓の外を見る老人の目は、少年の様な純朴な優しさと少し哀れみを持っていた。
その沈黙が1時間ぐらい続いた時であろうか。老人が独り言のように呟いた。
「羽虫が光に向かって飛ぶのは、蝶になりたいからなんですよね…。」
若い女は聞こえているのかいないのか、全く微動だにしなかった。それでも、老人は続けた。
「私の話を聞いていただけますか?」
若い女はゆっくりと顔を少しだけ上げた。しかし、彼女の目に老人は映っていないだろう。その目は何も映さない様な、拒絶の塊の様な、無機質でそれこそ机や椅子と変わらない「モノ」だった。
老人は彼女を見て少し微笑みながら話を始めた。
その沈黙が1時間ぐらい続いた時であろうか。老人が独り言のように呟いた。
「羽虫が光に向かって飛ぶのは、蝶になりたいからなんですよね…。」
若い女は聞こえているのかいないのか、全く微動だにしなかった。それでも、老人は続けた。
「私の話を聞いていただけますか?」
若い女はゆっくりと顔を少しだけ上げた。しかし、彼女の目に老人は映っていないだろう。その目は何も映さない様な、拒絶の塊の様な、無機質でそれこそ机や椅子と変わらない「モノ」だった。
老人は彼女を見て少し微笑みながら話を始めた。