熱く甘く溶かして
浄化
 部屋の中を見渡した恭介の中で、きっとあそこだろうという確信があった。

 部屋の奥の長椅子。机に突っ伏して寝たところで、何かが起きるとは考えにくい。

 胸を大きく動かし、息を切らしている智絵里の中に留まったまま、恭介は言葉を選びながら核心に触れる。

「部屋の奥には行きたくない?」

 智絵里は奥の長椅子を目にした途端、唇を噛んで目を閉じた。やっぱりそうなんだな……。

 あの場所から智絵里の苦しみが始まった。

 しかし智絵里は恭介の胸に抱きつき、顔を埋めると、
「あそこに連れて行って……」
と声を押し出す。

「いいの?」
「うん……あそこに行かないと、ここに来た意味がないもの……」

 恭介は繋がったま智絵里を抱き上げると、部屋の奥に置かれた長椅子に向かう。そして自分が座ると、足の上に跨った体勢の智絵里を見上げる。彼女の艶やかな表情に体の芯から震えるのを感じた。

 だが智絵里は恐怖感がまだ残っているのか、目を閉じたまま開こうとしない。

「……恭介が想像している通りよ……ここで私は寝ちゃったの……」

『目を覚ましたらね、なんか体がおかしいの』

 真実を聞いたあの日の言葉が蘇る。この場所で寝てしまった後、目を覚ましたら智絵里の生活が変わってしまった。

 そんなことが起こるなんて、普通に生活をしていた女の子に想像がつくはずないんだ。

「智絵里……目を開けて。俺だけを見て」

 恭介に言われ、智絵里は辛そうに目を開ける。その智絵里に何度も唇を重ねる。

「大丈夫。今智絵里はちゃんと自分の意思でここにいて、俺と愛し合ってるんだよ。俺のことを好きで好きで仕方なくて、お互いに深く繋がりたいって思ってる」
「……ちょっと待って。なんでわたしだけが好きで仕方ないみたいになってるの?」

 急に無表情になった智絵里の顔を見て、恭介は吹き出す。

「違うって。俺の好きはそんなんじゃ足りないってこと」

 激しく動き始めた恭介の動きに、智絵里の体は大きくのけぞる。

「智絵里……ちゃんと俺を見て。これは夢でもなんでもない。今二人が愛し合ってるってことが現実なんだよ……」

 力尽き、恭介は長椅子に倒れ込む。智絵里も彼のキャメルのブレザーの胸の中に沈むと、高校時代の恭介を思い出し、思わず胸が熱くなる。
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