熱く甘く溶かして

「……智絵里、よく聞いて。今の俺たちは高校三年……担任は田中、俺は学級委員、智絵里は、相変わらず高嶺の花」
「うん……」

 じっと見つめられて言われると、不思議とそんな気分になってくる。

「智絵里、好きだよ。俺と付き合ってくれる?」
「えっ……」

 恭介の意図がわからなかった智絵里は、驚いたように彼を見た。そしてようやくわかった。

 私たちは今、高校三年生の五月。何もかもが起こる前。

「……う〜ん、恭介は友達だし、彼氏っていうよりお母さんだしなぁ……」

 わざとそんなことを言ったが、智絵里はつい笑みがこぼれてしまう。

「智絵里のこと、友達以上に見てるんだ。もう我慢出来ない」
「でも……ん……」

 智絵里の反論はキスによって封じ込められてしまう。

「本当は俺のこと大好きだろ?」
「……バカ……」

 バカと言われたのに、恭介は幸せそうに智絵里にキスを繰り返す。そして彼女の足を再び開かせ、自分の上に跨るように座らせる。

「智絵里の《《初めて》》、俺にちょうだい」

 智絵里は驚いたように恭介を見た。あぁ、そうね。今は高校三年生の五月だもの。まだ何も知らない、真っ新な私なんだ。

 智絵里は涙が止まらなくなる。こんなに幸せで、こんなに満たされていいの?

「智絵里、いい?」
「うん……私の初めて、恭介にあげる……。だからいっぱい愛して……」

 恭介の上で繋がり、長椅子に倒れ込む。恭介の苦しそうな顔を見ながら、愛しさが膨らみ続ける。

 ずっとこの顔を見ていたい。智絵里は彼の首に腕を回し、何度も唇を重ねる。

「恭介……愛してる……」
「俺も愛してるよ……」

 私の心も体も記憶も、どこもかしこも恭介で溢れている。
 
 まるで恭介によって、私自身が浄化されていくようだった。
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