熱く甘く溶かして
恭介は隣の個室に戻って自分の荷物をまとめる。そして松尾の顔を見て頭を下げた。
「松尾さん、ありがとうございます」
「おうっ! 頑張れよ」
そして改めて智絵里の元に戻ると、彼女の荷物を集める。それからスマホを開き、アプリを使ってタクシーを呼ぶ。
「すごい……出来るね、篠田くん」
「一応社会人なので。智絵里、住所は?」
「言うわけないでしょ、バカ恭介」
「お前……」
言いかけて、カバンの中に手帳があることに気付く。恭介は手帳を開くと、最後のページまでめくった。
「お前って本当に変わらないのな」
そこにはしっかりと住所が記入されている。智絵里は昔から手帳を細かく書くのが好きだった。そのため、自分の住所や電話番号も必ず書いてあった。
何かあったら危ないから、書くのはやめろって言ったのにな。智絵里の変わらない部分を見つけて嬉しくなった。
タクシーの到着を知らせる音が鳴ると、恭介は智絵里の体を抱き上げ驚いた。おいおい、軽すぎじゃないか?
「じゃあ智絵里ちゃんをよろしくね」
「日比野さん、月曜日、覚悟しててくださいね」
「あら、怖い」
恭介は日比野にも頭を下げる。
「日比野さん、ありがとうございます」
智絵里は何も抵抗出来ない自分にイライラしていた。どうして恭介には拒否反応が出ないの? 酔っているから? 恭介だから? わからないからイライラする。