熱く甘く溶かして

 高校の時も確かに細かったが、今ほどではなかったはずだ。何が彼女をこんなふうにしたんだろう。やるせない気持ちになり、恭介は俯いた。

「なぁ、智絵里。俺、お前に何かしたか? もしそうなら謝りたいんだ……」

 すると智絵里が驚いて振り返る。

「なんのこと……?」
「高三の時、お前急に俺を避け始めただろ? 大学だって外部を受験したし……ケータイも繋がらなくなった。俺に原因があるとしか思えないじゃないか……」

 智絵里は再び恭介に背を向ける。そしてがっくりと項垂れた。

「……違う……恭介のせいじゃない……」
「じゃあ何があったんだよ……俺はあれからずっと悩んでる……俺がお前を傷付けたんじゃないかって不安で仕方ないんだ……」

 恭介は両手で顔を覆う。やっぱり私は恭介を傷付けた……だから会いたくなかったのに……。

 酔っているからだけではなく、後ろめたさから恭介の顔を真っ直ぐ見ることが出来ない。

「恭介は関係ないよ。安心して。これは私の問題だから」
「じゃあ教えてくれよ。なんで俺を避け始めたのか……俺が原因じゃない証明が欲しい……」
「……しっかり社会人やってるんじゃない。ただじゃ引き下がらないのね」
「智絵里」

 冗談っぽく言ったのに、恭介には珍しく通じなかった。それくらい真剣だった。

「……恭介が聞いたら私を見る目が変わると思う。あんたとは対等でいたいのよ……」

 きっと幻滅される。せっかく再会したのに、彼は一瞬で私の前からいなくなるんだ……。

 そう思って智絵里は気付く。きっとそう思われるのが怖くて、恭介には何も話せなかったんだ。大事な友達だからこそ、変わって欲しくなかった。

 でも再会当日ならまだ傷は浅くて済むかしら。それとも恭介を失う痛みは変わらないのかな……。

「……きっと幻滅するよ。それでもいいの?」

 智絵里が呟くと、恭介は顔を上げる。真剣な表情で智絵里を見つめた。

 智絵里は大きくため息をつき、自分の体をきつく抱きしめる。本当は話すことだって辛い。でもここまで来て、彼が引き下がるはずはない。

 あの卑しい記憶を手繰り寄せるしかなかった。
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