熱く甘く溶かして
 恭介と背中を合わせた智絵里は、力が抜けたように体を預けた。

「大学を変えたのは?」
「海鵬にいるのが怖かったから……あいつに私のことを知られたくなくて……。あれから男の人が怖くなって、だから女子大にしたの。意外と楽しかったよ」
「番号を変えたのは?」
「あいつに知られてたからね……全てリセットしたかった。でも一花(いちか)にだけは教えてたよ」
「なんで俺がお前の親友と仲良しだと思うんだよ」
「……だって好きだったじゃない……」
「お前な……あの一件でとっくに諦めたよ」

 背中越しに智絵里の熱が伝わってくる。お前にどうしても聞きたかったことがあるんだ……。

「どうして俺の前から消えたんだ……?」
「……それは違う。恭介の前からじゃない。あの頃の自分を知る人の前から消えたの」

 リセットしたかった。智絵里はさっきそう言った。それが真実なのだろう。

「俺は……もっと頼って欲しかった……」
「あはは。優しいなぁ、恭介は。でもその優しさがなくなるのが怖くて言えなかったんだよ……。拒絶されるのが怖いから、拒絶される前に逃げた。そうすればいつまでも私の中の恭介は優しいままだもん」
「……でも逆に俺はお前に拒絶されたと思って今日まで過ごしてきたんだ……」

 あぁ、そうか。今わかった。俺がお前に似た人ばかり付き合う理由。きっと昔みたいに智絵里と言いたいことを言い合って、本当の自分を認めて欲しかった。だからそれを似たような人に求めていたんだ。そんなこと無理なのに……。

「ごめんね……恭介を傷付けたってわかってる。でもあの頃の私にはそこまでの考えが及ばなかった。子どもだったんだよね……。だから会うのが怖くて、ずっと後ろめたかったの……」

 俺はずっとお前に拒絶されたと思ったいた。理由がわからず、ただ苦しかった。でもようやくパズルのピースが埋まっていく。

「……智絵里……今まで一人でよく我慢してきたね。友達なのに何もしてやれなくてごめん……」

 智絵里はその言葉を聞くなり、振り返って恭介のことを強く抱きしめた。

「だから違うって! なんであんたってそういうこと言うの……! 恭介は関係ないって言ってるでしょ……」

 智絵里の胸に抱かれ、恭介は驚くほど自分の中に安堵感が広がっていくのを感じる。ようやく智絵里に手が届いたと思うと、今まで心にかかっていたモヤがスッと消えていくような感覚に陥った。
< 20 / 111 >

この作品をシェア

pagetop