熱く甘く溶かして
 なんだろう。この心地よさは。今までの友達としてだけじゃない、温かさに満たされていくような感覚は……。

 恭介の頭に松尾の言葉が蘇る。

『友達から始まる恋なんていくらでもあるんだぞ。むしろその方がお互いを知ってるから付き合いやすいらしい』

 確かにこんなにお互いのことを知っていて、気を張らずにいられるのは智絵里しかいない。

『居心地が良すぎて、恋愛感情まで到達しなかったんじゃないかと思ってさ。今ならそういうの抜きにして考えられるかもよ』

 そうかもしれない。今まで近過ぎて見えていなかった。友達という壁が邪魔をして、女性としての智絵里を見ていなかった。

 やっと分かった。俺が求めていたのは智絵里自身なんだ。

 智絵里の胸の感触、甘い香り、頬に降りかかる柔らかい髪。恭介は胸が苦しくなる。呼吸ってどうやってするんだっけ……。

『でさ、かなりの男嫌い。触られると拒否反応を示すらしい。だから受付業務をわけてるんだって』

 その時ハッとして恭介は智絵里の顔を見る。

「お前……俺のこと普通に触ってるよな」

 すると智絵里も驚きの声を上げる。

「……本当だ……。こんなこと初めて……」

 《《俺だけ》》拒否反応を示さないだなんて……なんだよ、それ。

「わかった! 異性として見てないとか?」
「お前な……」

 恭介は智絵里の体を抱きしめてみたが、それでも智絵里が拒絶するような様子は見られなかった。

 つまり俺なら智絵里のそばにいられるんだ。
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