熱く甘く溶かして
「なぁ智絵里……今まで何も出来なかった分、これからお前のために何かしたい」
恭介の言葉に、智絵里は困惑する。
「……例えば?」
恭介は急に険しい顔になり、智絵里のお腹の肉を摘む。
「まずは食事だな。俺がきちんと三食食べさせる」
「うわっ……やだ、想像した通りだった自分が怖いわ……」
「当たり前だろ。基本的生活習慣はちゃんと身につけないと」
「出たよ、恭介のお母さんキャラ……」
智絵里は呆れたように呟いたが、恭介は智絵里を抱く腕の力を緩めようとはしなかった。
「でも、お母さんとしてお前のそばにいる訳じゃないからな……」
「……どういう意味?」
怪訝そうな顔で恭介を見つめるが、恭介の真剣な瞳に捕らえられ、身動きがとれなくなる。
「智絵里、俺と付き合わないか?」
「はっ……? や、やめてよ……。さっきあんな話したばかりだよ。普通はそんな風にならないでしょ……」
「智絵里、逃げるなよ。俺はお前をそばで守りたいんだ……」
「本当に……そういうのやめて……そんないきなり言われても……」
「すぐに返事をくれとは言ってない。きっと今は友達の立場だから拒否反応が出ないのかもしれない。でも今後俺が男として意識され始めたら、智絵里に拒絶される可能性だってある。それでもお前のそばにいて、守りたいって思ったんだ」
「恭介……」
「智絵里が嫌がることは何もしない。何かして欲しかったら言ってくれればいい。だから……」
「……ねぇ、恭介ってこんなに甘々だったの? 意外だわ」
智絵里は恭介の顔に触れる。なんでだろう。やっぱり全然嫌じゃない。でも友達の恭介にこんなことを言われるなんて不思議な気分だった。
「……私のこと好きなの?」
「うん、好きみたいだ」
鎌をかけただけなのに、突然の恭介の告白に胸がときめく。おかしいな……恭介は友達なのに。年月を経て男性としての色気を身につけた恭介に、私の体が彼に反応し始めている。
「……こんな私だよ。それでもいいの?」
「こんなってなんだよ。俺は口が悪くて、甘党で、でも実はすごくかわいい智絵里がいいんだ」
「……何よそれ。じゃあ愛してるって言ってみて」
「……愛してるよ、智絵里」
その瞬間、二人の心臓が大きく跳ねた。智絵里は恥ずかしくて、顔を上げられない。でも大丈夫、いずれきっと愛に変わる予感がした。
「……恭介、彼女は?」
「いないよ。いたら言わないし。ほら、指輪もしてないだろ。気になるなら松尾さんに電話してもいいぞ」
「……わかった……。でも……私のペースで進ませてくれる?」
「もちろん」
本物の智絵里が俺の腕の中にいる。やっと捕まえた。
「もう一人で我慢しなくて良いんだよ」
恭介が言うと、智絵里は彼の胸に崩れ落ち、涙が枯れるまで泣き続けた。