熱く甘く溶かして
懐に入る
 智絵里の荷物は驚くほど少なかった。布団以外のものはキャリーバッグに全て入ってしまった。

「よくこれだけで生活出来てたな……」
「ミニマリストってやつ? 意外と困らないのよ」

 智絵里は胸を張って言ったが、恭介は眉をひそめる。なんでこんなに少ないんだろう。引越しをしやすくしているとしか思えない。これにも何か理由があるのだろうか。

「……荷物置いたら買い物に行くか。俺好みの服を追加してもらおう」
「……私の話、聞いてた?」

 その時に恭介のスマホに、着信が鳴ったかと思うと、Tシャツにデニム姿の松尾が姿を現した。

「よっ、お待ちどおさん」

 松尾は恭介の姿を見るなり、口を手で押さえて顔を赤く染めた。

「やだっ、篠田くんたら、再会初日からお泊まり⁈」
「……松尾さん、どうでもいいから荷物運ぶの手伝ってください」
「お前さ〜、せっかく手伝いに来てやってんだから、ちょっとくらいは茶番に付き合えよ。ねっ、畑山ちゃん!」
「今日は来ていただいてありがとうございます。助かります」
「……畑山ちゃん、相変わらず素っ気ないなぁ。っていうか二人、なんか似たもの同士?」

 松尾の言葉に、恭介は嬉しそうに微笑んだ。高校時代によく言われた。だから懐かしく感じる。

 松尾の黒のワンボックスに二十分ほどで荷物を積み込むと、全員が車に乗り込む。松尾は運転席に座りながら、ミラー越しに二人を見る。

「で? 昨日の今日でこういう展開になってるってことは、二人のわだかまりは解けたってこと?」

 恭介は隣に立つ智絵里を見つめる。わだかまりというか、真実を知ったからこそ、自分の気持ちに気付けた。
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