熱く甘く溶かして

「別に松尾さんだからじゃないですよ。たまたま言うタイミングを失くしただけで、わざわざ時間作ってまでプライベートなことを話す必要はないかなって思っただけなので」

 恭介は万人受けする笑顔で松尾を見た。

「……まぁそうだな。確かに俺たちは仕事をしに来ている。さすが営業の篠田スマイルは伊達じゃないな。で、別れた理由は何なんだ?」

 なんだ、全然納得してないじゃないか。

「別に……まぁ告白されて付き合っただけで、付き合ってみたら違うなって感じただけです」
「……たまたま同じタイプの女と付き合うんだ?」
「たまたまです」
「元カノを引きずってるって噂は?」
「ないですね」
「じゃあその好みの原点になったような女は? 片想いしてたとかさ」

 その時に恭介の動きが止まる。それを見て松尾はピンとくる。今まで元カノの話までは聞いていたが、こいつのはそれ以前のものだったのか。

「まぁ……似たようなタイプの友人はいましたが……」
「それって……!」
「松尾さん、そろそろ仕事しましょう」

 恭介が笑顔で諭したので、松尾は黙った。そしてしばらくしてから、再び口を開く。

「なぁ、お前って今日は内勤?」
「そうですね、最近は外回りが多くて仕事が溜まってたので、今日はそれを片付けようかなと」
「ならさ、今日俺の仕事に付き合わない? いつも同行してる宮前が有休だから一人で行こうと思ってたんだけど、沙織ちゃんと別れたならお前を連れて行かないとな」
「……意味がわからないんですけど。俺仕事が……」
「いいからいいから! 後で俺も手伝うからさ!」

 恭介に対抗して、松尾は満面の笑みを向ける。

「……わかりました」

 何か魂胆があるのはわかっていたが、先輩には逆らえずについていくことになった。
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