熱く甘く溶かして
 松尾の運転で連れてこられたのは、いくつものオフィスが入るビルだった。

「ここの五階にある、オーブっていう若い女性向けのアパレル会社なんだ。主にルームウェアとかを取り扱ってるんだけどさ、そこの受付にめちゃくちゃかわいい女の子がいて、絶対にお前好みだと思うんだよ〜」

 やっぱりそういうことか。この理由で散々連れ回された。

 エレベーターが止まり、廊下を左方向へ歩き出す。えんじ色の絨毯を進んでいくと、目の前に"aube"の流れるような字体の社名が見え、白が基調の入口が見えてくる。

 松尾が受付の女性に話しかける間、恭介は松尾の後ろに立っていた。

「JPFの松尾でーす」

 確か受付の女性って言ってたよな。恭介は松尾が話している女性を見たが、ショートカットでボーイッシュなイメージの女性だった。

 だとすると隣に座っている女性だろうか。下を向いて何か書き物をしているようで、一向に顔を上げようとしなかった。

「あら、松尾さんじゃない。ちょっと待っててね〜」

 かなり親しいのか、松尾は手を振って女性を見送る。すると今度は隣にいたもう一人の女性に声をかける。

畑山(はたけやま)ちゃ〜ん、元気してる?」
「元気ですよ」
「相変わらず素っ気ないな〜」
「何度も言ってますが、私は女性担当です。男性は日比野(ひびの)さんにどうぞ」

 畑山……? 恭介は時間が止まったような気持ちになった。しかも今の声と話し方……心臓が早く打ち始める。まさか……。
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