熱く甘く溶かして
一つに
 家に着くと、恭介はいつもの流れで風呂に湯を張り、キッチンに向かおうとした。しかし智絵里に背後から抱きしめられ、身動きが取れなくなる。

「智絵里?」

 恭介は振り返るが、智絵里は背中に顔を埋めているので顔は見えない。

「どうしたの?」
「……すごく嫌だった……」

 さっきのことを引きずってるんだと気付き、恭介は智絵里の手を上から握る。

「何もないから大丈夫だって」
「そうじゃなくて……私が知らない恭介を、あの人が知ってるのが嫌だったの……」
「そう? あいつの知らない俺の方が多いと思うけど」
「だから……そうじゃなくて……」

 そこでようやく恭介はピンと来る。沙織が言った言葉を、智絵里は消化できずにいるようだった。でもそれは一線を越えることを意味している。

 恭介は智絵里の手を体から解くと、振り返って向き合う。すると智絵里は悲しそうな顔で恭介を見ていた。

「智絵里ってば、ヤキモチ妬いたとか?」
「だ、だってキレイな人だったし……夜までとか言ってたし……」
「あはは。ちゃんと聞いてんじゃん。でも俺からすれば、智絵里の方がずっとキレイだと思うけど」

 智絵里は恥ずかしそうに下を向く。緩やかに落ちる長い髪に指を差し入れ、恭介は智絵里を自分の方に向かせる。

「ねぇ、智絵里。俺に言いたいことはない?」

 戸惑ったように口籠る智絵里にキスをする。ゆっくりじっくり彼女の中に入り込む。俺は知ってるんだ。こうすると智絵里が溶けていくこと。溶けた智絵里はびっくりするくらい素直になることを。
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