熱く甘く溶かして
番犬
 恭介は高校の時クラスメイトから、会社近くのファミレスに呼び出されたため渋々出てきた。

 店に入ると、窓際の席で手を振る男がいる。がっしりとした体つきの早川は、今は刑事として働いていた。学部は違うものの大学まで一緒だったので、時々連絡は取り合っていた。

 恭介が向かいの席に座ると、早川はメニューとにらめっこをしている。

「俺、西京焼き定食ね」
「早っ」
「この店ならそれしか頼まない」
「相変わらずブレないなぁ」
「逆にお前はブレブレだな」

 お互い注文をすると、早川は改めて恭介に向き直る。

「急に呼び出して悪かったな」
「まぁいいんだけど、要件は?」
「ちょっとお前に聞きたいことがあってさ」
「聞きたいこと?」

 早川は真剣な表情で恭介を見つめる。

「お前さ、高校の時に畑山と仲が良かっただろ?」

 急に智絵里の名前が出てきたことに驚いた。

「畑山ってさ、大学に進学が決まっていたのに、急に外部の受験を決めたよな。三学期になって学校に来たのは卒業式だけ」

 早川が何を言いたいのかわからず、恭介は口を閉ざす。その空気に気付き、早川は一呼吸置いた。

「あの頃のお前のあだ名って知ってる?」
「いや、知らない」
「番犬篠田。いつも畑山のそばに張り付いて、変な奴が近付こうものなら、睨みを効かせて追い払うから、お姫様付きの番犬って呼ばれてたんだよ」
「マジで? 知らなかった……っていうか、俺そんな感じだった?」
「だって片時も離れなかったじゃん。だから男子は畑山さんに近付けなくてさ、唯一部活の時がチャンスだったんだよな。本気で狙ってる奴は、吹奏楽部の練習終わりとかに話しかけたりして」

 高校時代を振り返り懐かしんでいたが、早川の表情が変わる。
< 48 / 111 >

この作品をシェア

pagetop