熱く甘く溶かして

「なぁ、畑山の様子がおかしくなった時、お前何か話を聞いたりしなかったか?」
「……なんでそんな話を俺にするんだよ」

 早川は表情を変えずに話し続ける。こういう顔は刑事の時の顔だった。

「……今うちで扱っている事件があって、もしかしたら畑山が関わっている……いや、被害を受けている可能性があるんだよ。畑山に話を聞きたくても登録された住所にいなくて、お前なら何か知っているんじゃないかと思ってさ」

 早川の話を聞きながら、大体のことは想定が出来た。でも俺が話していいようなことではない。

「特に卒業式の日なんか、番犬篠田の最後の仕事って感じでさ。お前トイレまでピッタリくっついてたんだぜ。なんかある意味、番犬の忠犬ぶりにみんな感動してたけど」

 俺ってそんなに智絵里にべったりだったのか。初めて知らされた事実に恥ずかしくなる。

「……あのさ、それって海鵬の教師が絡んでたりするか?」
「……あぁ、絡んでる」
「やっぱりそうか……でもなんで今更? もう九年も前の話だぞ」
「実は……何人か被害届を出してるんだ。もう時効を迎えたものもある。でも届けだけなんだ。それだと捜査には入れない。ただ最近出した子がさ、勇気を出してくれたんだ」

 智絵里だけでなかったことに、恭介は怒りを覚えた。

「畑山がもし被害者だった場合、今年中には時効になる。訴えるなら今なんだ」

 早川の言葉が重くのしかかる。ようやく元気を取り戻してきた智絵里に、どう話していいのかわからなかった。また辛い思いをさせるのか、それともきちんと解決すべきなのか。智絵里はどう答えるだろうか。
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