熱く甘く溶かして
恭介は一歩前に出ると、受付カウンターの前に立つ。その様子に気付いた松尾と女性が顔を上げた。
その瞬間、女性が目を見開いて固まった。
「おっ、篠田。こちらがお前に紹介したかった畑山さん。なっ、お前の好みにドンピシャだろ?」
恭介と畑山は見つめ合ったまま、お互い動けなかった。
そんな中、恭介は精一杯の笑顔で話しかける。
「あの……JPFの篠田恭介と申します。失礼ですが、お名前を伺っても?」
すると畑山はにっこり微笑む。
「いえいえ、名乗るほどのものではございませんので、私のことはお気になさらず」
「ん? 畑山ちゃん、どうしたの?」
「そんなこと言わずに是非教えてください」
「私は女性担当なので、用件は日比野にお願いします」
席を立とうとした畑山を、恭介は腕を掴んで止めた。
「待てよ……お前、畑山智絵里だろ……」
「……違います」
「えっ、なんで畑山ちゃんのフルネーム知ってるんだ? 智絵里なんてかわいい名前、絶対に忘れないよなぁ」
「……えぇ、絶対に忘れないですよね。なぁ、智絵里」
恭介は睨みつけるように智絵里を見る。智絵里は慌てて顔を逸らした。
「お待たせー」
その時日比野が戻ってきたため、恭介は驚いて手を離してしまった。そのタイミングで智絵里はダッシュで逃げ出す。
「あっ、おいっ……! 智絵里!」
「智絵里ちゃん⁈」
残された恭介は呆然と立ち尽くす。なんで逃げるんだよ……。やっぱりあいつは俺に会いたくないのだろうか。そう考えると苦しくなった。
「ま、まぁ篠田、とりあえず仕事しようぜ。話はその後聞いてやるからさ」
松尾に促され、恭介は渋々仕事に戻った。