熱く甘く溶かして
優しい君
 土曜日の午後、智絵里に突然一緒に来て欲しい場所があると言われ、彼女に手を引かれどこかに向かっていた。

 目的地までは教えてくれなかったが、智絵里が珍しく浮き足立っている。

「目的地くらいは知りたいんだけど」
「ダメ。内緒」

 駅前の青果店で果物の盛り合わせを購入し、ガラガラの電車に二十分ほど乗ってから、智絵里の実家近くの駅で降りる。だが実家とは違う方向へと歩き出す。

 商店街を抜け、住宅地へ入っていく。すると白い塗壁の可愛らしい家の前で立ち止まった。表札には筆記体で"CHIBA"と書かれている。

 誰の家に連れてこられたのかわからず、恭介は呆然と立ち尽くしている。

 智絵里は楽しそうにインターホンを押した。

『はーい!』
「私だよ〜」
『ちょっと待っててね〜!』

 声の主の女性にはこちらが見えているようで、何も言わなくても通じてしまった。

「なぁ、智絵里。俺が来ていい場所なの?」
「もちろん。じゃなきゃ一緒に来ないよ」

 智絵里が言うなら大丈夫だと信じ、恭介は少し緊張しながらこの家の主人がドアを開けるのを待つ。

 しばらくしてから玄関のドアが開き、小さな男の子を抱いた男性が出てきた。
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