熱く甘く溶かして
「智絵里には言ってなかったんだけど、実は卒業式の日ね、篠田くんに智絵里のそばにいて欲しいってお願いしたの。智絵里には余計なことするなって怒られそうだから言えなかったんだけど」
「卒業式?」
「そう。智絵里を守って欲しいって言ったらね、すごく嬉しそうに快諾してくれたのよ。さっきの話だけど、確かに篠田くんっていつも智絵里のそばにいたから、番犬って言われてたのも納得した」
そんな約束が二人の間で交わされていたなんて、今初めて知った。よく思い出してみれば、一人になる時間がないくらい、恭介はそばにいてくれた。
「篠田くん、卒業式の日に番犬のラストミッションっ言われてて意味がわからなかったけど、さっきの話を聞いて納得したよ。卒業式だけじゃなくて、その前からずっと智絵里のそばで、智絵里のことを守ってくれていたんだね。気付いてなかっただけで、実はきっとあの頃から愛されてたんじゃない?」
「……恋愛としての気持ちがあったかはわからないけど、恭介がずっと支えてくれてたっていうのはわかる。でもそっか……私が卒業式を楽しく過ごせたのは、一花と恭介のおかげなんだね」
私を心配して支えてくれる人がいて、その人たちがこんなにも私を大事にしてくれている。そのことに気付いて、智絵里は胸がいっぱいになる。
「どう? 篠田くんって優しい?」
「うん、すごく優しい。まだ過保護なところもあるけどね」
「でもそれが良いのかもしれないよ。構ってもらえるのって、ちょっと嬉しかったりしない?」
「度を超えるとうざったいけどね」
「確かに! でも智絵里、篠田くんには許容範囲広そう」
「そんなこと一花に言われたくないよ。一花の先輩への許容範囲の広さは比べ物にならない」
どんな先輩でも怯まず受け入れてきた一花のことを、智絵里はずっと尊敬していた。たかが学生の恋ではなく、いつでも真剣に先輩と向き合おうとする姿は、きっと誰もが応援したくなると思う。
「私は特殊だから。でも智絵里が幸せそうで安心した」
「うん……ありがとう」
自分には縁がないと思ってきた感情が、こうして存在していることが嬉しい。この気持ちを抱かせてくれた恭介との関係が続くことをただ願うばかりだった。